気になる看板「鉄道模型とカレー焼き」 現役駅長や運転士も来店

長沢幹城
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 「鉄道模型とカレー焼き」。そんな看板を掲げた店が、佐賀県小城市小城町畑田にある。複数の店舗が軒を連ねる建物の一角。人気だというカレー味の今川焼きの味も気になるが、4坪ほどの店内に鉄道模型は見当たらない。だが、店舗裏の細い外階段を2階に上がり小部屋をのぞくと、巨大なジオラマ(立体模型)が広がっていた。

 縦約6メートル、横約3・5メートル。鉄道模型は線路幅が9ミリの「Nゲージ」で、路線は3系統あり、同時に6編成の列車を走らせることが出来る。夜間照明がつく駅舎や、新幹線「はやぶさ」と「こまち」が連結した編成(全17両)も走行可能な高架の路線、機関車などの入れ替え操作が出来る転車台もある。自分のお気に入りの車両を持ち込んで走らせることも出来る、鉄道模型ファンにはオアシスのような空間だ。

 店は、林秀宣さん(61)と妻眞由美さん(57)が、教師だった秀宣さんの退職を機に、「お互いに好きなことを生かして仕事にしよう」と始めた。

 秀宣さんは、鉄道模型愛好家歴40年。同じ趣味の人が集まって、職業や世代を超えた交流を楽しめる隠れ家的な空間をつくりたいと考えたという。料理が得意な眞由美さんは、独学で研究して、カレー焼きを思いついた。カスタードクリームや季節限定の味も開発。あんこは、ようかんの名産地・小城市の舌の肥えた市民にも受け入れられるようにこだわって黒あんと白あんをつくる。

 駐車場だった1階に店をつくり、2階にあった貸間の空き部屋を改装して鉄道模型のジオラマを制作した。いずれも秀宣さんが改装を手がけたという。退職が2021年3月、オープンはその年の11月というスピード開業だった。

 開店当初からの常連で、小城市の会社員中島敏成さん(66)は、以前は福岡市まで出向いて自分の車両を走らせていたという。「車両は走らせてなんぼです。走る姿、走る音を聞くと、車両が喜んでいるのが分かります」

 2カ月ほど前に来店した時、長崎線鹿児島線などを走る415系電車のファンだと話す男子中学生と出会った。だが車両は持っていないという。中島さんはすぐに自宅へ車両を取りに帰り、中学生に貸してあげた。中学生はその車両を走らせたり、近くで眺めたりして楽しんでいたという。その喜んでいる顔がうれしくて「彼がいつでも楽しめるように、私の車両を店に置いているんです」と中島さんは話す。

 インスタグラムなどのSNSで店を知り、県内だけでなく九州各地や東京から駆けつけるファンもいる。JR九州の現役の駅長や運転士が来店したこともあり、鉄道模型ファンとの話に花が咲いたという。

 店には秀宣さんが所有する蒸気機関車や特急列車、貨物列車などの車両も千両ほどあり、来店者はこれを借りて走らすことも出来る。秀宣さんは「もうけよりも、お客さんの喜ぶ顔がうれしい」という。現在は博多総合車両所(JR西日本)をイメージした新幹線の車両基地を制作中で、完成すれば同時に10編成を並べられるようになる予定だ。不要になったNゲージの線路や情景のパーツも、問い合わせを受けたうえで引き取っている。

 鉄道模型のジオラマの見学・利用は午前11時~午後7時、定休日は月、火曜日。見学は無料、車両を借りて走らせる場合は15分300円、車両を持ち込んで走らせる場合は60分500円の寄付をお願いしている。問い合わせは090・1348・0898。

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