無人駅にぎわい集まる 観光拠点やマルシェ開催
JR駅の無人化が進んでいるなか、和歌山県内では、駅舎を観光案内所や地域のコミュニティースペースとして利用するなど「人々が集う無人駅」も増え始めている。活気のある場所にしようと町の人々の取り組みが続く。
JR西日本和歌山支社によると、県内にある80駅のうち、駅員が配置されていない無人駅は2012年4月時点では52駅だったが、今年3月末に笠田(かつらぎ町)、高野口(橋本市)の両駅が無人化されるなど、現在は63駅になった。
無人駅になったあとも町への簡易委託で切符を販売していた印南駅(印南町)は、3月末で窓口販売がなくなった。券売機がないため、昨春に県内全域で使用可能になった交通系ICカード「ICOCA」(イコカ)を利用するか、降車駅や車両内で精算する。
印南駅の駅舎は17年に、JR西日本から町に譲渡された。町のシンボルになっているカエルのオブジェや、だれでも自由に弾くことができるピアノを設置し、観光客や地域の人たちが安らげるスペースにした。全国放送のテレビ番組に取り上げられたり、コロナ禍前には定期的にミニコンサートも開かれたりして、観光スポットになった。
ほかにもまちの人々の手によって活気を取り戻している駅がある。朝来駅(上富田町)にある「口熊野かみとんだ観光案内所」は、18年10月から町民有志でつくる「口熊野かみとんだ山桃会」が町から委託を受けて運営している。定期的に開いているマルシェには多くの人が訪れる。会のメンバーによると、駅のトイレの利用者がドアの不具合で出られなくなったことがあったそうで、「(会の)スタッフが気づいたが、誰もいない『無人駅』だったら、なかなか出られなかったかも」という。
特急の停車駅だが昨年5月末で簡易委託の切符販売を終了した周参見駅(すさみ町)には、観光案内所やカフェ、レンタサイクルの施設などもある。01年に町が駅舎を兼ねた「町民コミュニティープラザ」を建てた。駅近くに昨年オープンした町観光案内所「フロント110」と合わせて、町の「窓口」となる観光拠点の役目を果たしている。
また、和深駅(串本町)は20年3月に老朽化した木造の駅舎を撤去し、コンクリート造りの簡易な構造の駅舎に改築した。海を背景にしたシンプルな白い駅舎が「写真映えする」とSNSなどで話題になり、若者らが訪れる名所として全国的な知名度も上がっている。
「駅舎」を有効活用しようという地域の取り組み。赤字ローカル線の見直しを検討する動きがJR各社に広がっているなか、「駅舎」のにぎわいが、路線の活性化につながるか注目される…