「超短時間雇用」で障害者働きやすく 岐阜市で応援センター始動
週に1日だけ働く――。そんな選択もある「超短時間雇用」の試みが、岐阜市で始まった。フルタイムで働くのが難しい障害者らに門戸を開き、企業も優先度の高い仕事に集中できる利点もあるという。市は今春、「超短時間ワーク応援センター」を設け、利用を呼びかけている。
「3時間である程度の仕事をしなければいけない。力(りき)入れてやっています」
岐阜市日野南の建築事務所「デザインボックス」で4月中旬、丹羽彰光さん(58)がパソコン画面を見つめていた。出勤は週1回、3時間。各自治体が公表している入札情報を資料にまとめる仕事で、時給は千円だという。
丹羽さんは19歳で統合失調症と診断され、短大卒業後に就職したが、人間関係がストレスで入院と転職を繰り返したという。4年間の長期入院やグループホームでの生活も経て、企業で働くのは約20年ぶり。昨年10~12月に県の支援制度を使って職場実習し、今年2月にパート社員として採用された。仕事を続けられた理由を「時間が短いというのもある」と話す。
デザインボックスの八代俊代表取締役(60)は「障害者に仕事を委託するイメージは最初まったくなかった」と振り返る。市と東京大の共同研究の一環で助言を受け、社内の業務を見直した。事務職員の手が回らなかった地域の入札情報を丹羽さんに任せたという。
丹羽さんの就労を支援する「清流障がい者就業・生活支援センターふなぶせ」の森敏幸所長によると、精神障害や発達障害のある人は、体調に波があったり就労経験が少なかったりして、最初からフルタイムで働けないことが多い。森さんは「一般の人と障害のある人が同じ職場で働くのが理想だが道のりは険しい。超短時間の雇用があると知り、雷に打たれたようだった」と話した。
◇
岐阜市の超短時間ワーク応援センターは、県障がい者総合就労支援センター(学園町2丁目)内にオープンした。初年度は10人ほどの就労をめざす。
◇
週20時間に満たない「超短時間」の雇用モデルは、東大先端科学技術研究センターの近藤武夫教授が提唱した。2016年に川崎市で取り組みが始まり、神戸市や東京都渋谷区、福島県いわき市にも広がった。
「障害者が働く仕事をつくることをいったん忘れ、部署で何に困っていて、何をやりたいか分析してください」。近藤教授は企業の担当者にこう説明するという。「超短時間」の働き手に周辺業務を任せることで、企業側は企画や接客など本来力を入れたかった仕事に集中できるという。
「超短時間」の雇用モデルでは、採用前に仕事の内容を決め、遂行に必要なこと以外求めないのも特徴だ。料理店で穴子を焼くだけ、すしのシャリをつくるだけ、といった雇用の例がある。敬語を使ったコミュニケーションが苦手な障害者が、文章の英訳を手伝う例もあるという。
近藤教授は「仕事をつくるには、商店街や経済団体に声をかけ、街を巻き込んでいかなければいけない」と強調する。地方都市は人口減少が進み、人手不足も深刻だ。「超短時間」なら高齢者や子育て中のひとり親、家族の介護をする人らも新たな働き手になり得るという。