強権主義はロシアの地金なのか 危機に立つ民主主義と残された希望
池田嘉郎さん|ロシア史研究者
軍事力で隣国に侵攻し、国内の異論を抑え込む。世界が目の当たりにするロシアの姿は、かつての大国、社会主義ソ連の記憶と重なる。強権による専制主義は、長い歴史の中で培われてきた、この国の地金のようなものなのか。ロシア史の研究者である東京大学准教授の池田嘉郎さんに聞いた。
いけだ・よしろう
1971年生まれ。専門は近現代ロシア史。著書に「ロシア革命 破局の8か月」など。訳書に「プーチンと甦るロシア」。
――9日の対独戦勝記念日でプーチン大統領が演説しました。
「欧米への対抗意識を示し、ウクライナ侵攻の正当性の論理を繰り返すだけの内容でした。ただ列席者の顔ぶれでは、ロシア正教会のキリル総主教やソビャーニン・モスクワ市長が目立っていて、宗教者や実務派の行政官などロシアの公的社会が一体となってプーチンの戦争遂行を支えている、という印象を受けました」
――戦死者が増える中、侵攻への支持は高いままでしょうか。
「正直に答えるのを恐れる人も増えているのでしょうが、大体世論調査通り、7、8割が侵攻を支持し、約2割が反対しているとみます。ただ私は、反対が『たった2割』とは思いません。インテリや若者だけではなく、広い層に静かに及んでいるように思います」
――7、8割の支持層、高齢者はテレビのプロパガンダ(宣伝)にだまされているのでしょうか。
ロシアの強権主義的歴史は、広大な国土を擁する多民族・多宗教国家であることと結びつけられがちですが、新世代のロシア人研究者はそうした見方を拒むといいます。ウクライナ侵攻で深まる民主主義の危機と、ロシア革命から地下水脈のように続く人々の試みや抵抗と。記事後半で読み解きます。
「ソ連のような大国に」国民が求める物語
「ソ連時代を知る国民は、テ…