論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん
「ウクライナ」はいまや国内問題となった。戦火が続く同国から日本に逃れてきた人たちは、4月25日の時点で、720人に上るという。男性は祖国で戦場に駆り出されているゆえ、女性と子どもが多いだろう。となれば、安定した教育・住環境のために定住を希望する者が多く出る可能性も高い。欧米に比べれば少ない数だが、日本も少しずつ難民との共生を模索する社会になるだろうか。
外交の場では通常、主権、領土、軍備等がテーマになる。しかし、こういった従来の外交のあり方を問題にするのが「フェミニスト外交」という考え方だ(〈1〉)。
「フェミニスト外交」は、いわゆる「人間の安全保障」の理念を引き継ぎ、国家本位ではなく、人間一人ひとりの尊厳と福祉を重視する。それはまた、ジェンダー、民族的出自、宗教、性的指向、障害、年齢などを理由に疎外されるすべての少数派社会グループに対して、外交舞台に平等な参加を促す包摂性を理念に掲げる。〈2〉のUN Womenの調査によれば、女性が和平プロセスに参加した場合、平和が最低15年続く可能性が35%高まることが分かった。最近ではドイツのベアボック外相が、戦場で性暴力が武器として使われてきた観点から、21世紀の安全保障政策には「フェミニスト外交」の視点が欠かせないと連邦議会で訴えた(〈3〉)。
ウクライナの場合も、いずれは政治・法制度改革、教育施設の整備や環境保護、活発な市民社会への投資を含む経済復興に注力すべき時が訪れる。同時に、避難した難民たちも生活の拠点を定め、日常を取り戻して生活を再開させる。こうした日常生活の立て直しも、国際平和を持続させる重要な課題だ。
これまで、外交問題はエリート外交官や専門家のみに委ねられ、メディアも、政府要人=男性の言動を報じることが中心だった。この傾向が続く限り、国際関係は「有毒な男らしさ」に支配され、結果、国と国との争いや競争が優先事項となり、難民差別や戦時の性暴力といった問題が後回しにされてきた。
米軍のアフガニスタン撤退の際はほとんど手を差し伸べなかったのに対し、ウクライナの「避難民」は受け入れた日本政府。後半では、背景にある現代的な人道的支援の考え方と、今後求められる支援を考えます。
では、今の日本はどうだろう…
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