日本一美しい廃線 国鉄倉吉線跡ツアーを体験

清野貴幸
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 竹林の中にレールが残され、SNSなどで「日本一美しい廃線」とも称される鳥取県倉吉市の旧国鉄倉吉線跡で4月17日、ウォーキングイベントがあり、取材を兼ねて記者も参加した。竹林に包まれた線路に加え普段は入れないトンネルも歩くことができ、見どころ十分のツアーだった。

 倉吉線(約20キロ)は1985年に廃止され、レールやホームが今も残る。廃線跡は日常生活で使われ、誰でも立ち入りできるが、ボランティアガイドの説明を聞くことができるのが今回のイベント。倉吉観光MICE(マイス)協会が今年は11月まで計7日予定していて、17日の初回には県内から家族連れなど26人が参加した。

 ルートは5・3キロ。関金温泉の入浴施設前から出発するとすぐ、雪がまだ残る大山が遠望できた。春がすみもない快晴だ。

 道路が丁字路で直進できなくなると線路が始まった。小高い土手の上にレールと枕木がある。すぐ脇に民家と田んぼ。土手下にはさびたレールが野積みされていた。「ずっと放置されています。途中で予算がなくなったからなのか」とガイドの男性。

 レールが残る区間と、撤去された道路が混在するのが倉吉線の特徴だ。なかには路面にレールが埋め込まれた場所もあり、その先には車が止まっていた。今は私道で、車も走れるようレールごと舗装したらしい。ホームと駅銘板の跡が人気という泰久(たいきゅう)寺駅跡で休憩した。

 ここから先は人里を離れ、やがて竹林に覆われた。レールの間から立派な竹が2本直立している。3本あったうち1本が今冬の大雪で折れたというが廃線でなければあり得ない光景で、結婚式の写真を撮る人もいるなど人気のスポットらしい。先頭でガイドを務めた福井千尋さん(80)は「季節と時間で風景が変わる。幻想的です」と魅力を語る。日が遮られて雑草が育たず、枕木がうずもれるのを防いでいるという。

 山守(やまもり)トンネル(約110メートル)に入った。普段は施錠され、今回のようなガイド付きツアーでしか入れない。ライトがないと歩けない暗がりは湿っぽく、壁を無数の虫がはい回っていた。足元にレールはなく、小石が敷かれている。貴重な体験ではあるが、心なしか早足になった。

 トンネルを出ると線路は途切れ、折り返し地点だった。鎮座する蒜山(ひるぜん)三座を前に福井さんが締めくくるように説明した。「本来は蒜山を抜けて岡山県まで続く計画だった。そのままあえなく廃線になった」

 2時間余りのツアーが終わった。SLが好きだという米子市の小学5年、木村静哉君は「疲れた」と言いながらも笑顔で、「トンネルが意外に小さかった」。母保子さん(49)によると、新型コロナウイルスの影響で県外に出かけられないため家族3人で県内を巡る観光を重ねているという。「こんな廃線跡があるとは知らなかった。竹林がきれいでした」

 協会によると、倉吉線の廃線跡はSNSやテレビ番組の紹介などで認知度が高まり、訪れる人が増えているという。この日は定員の40人に満たなかったが、コロナ禍前は毎回60~100人が参加していた。参加費は入浴券や記念入場券が付いて1人2千円。

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 国鉄倉吉線 1912(明治45)年、上井(あげい)駅(今の倉吉駅)と倉吉駅(後の打吹〈うつぶき〉駅)を結ぶ倉吉軽便線として開業。58年に山守駅までの全線約20キロが開通した。中国山地を越えて姫新(きしん)線の中国勝山駅(岡山)まで延伸する計画があったが実現せず、85年に廃止された。

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この記事を書いた人
清野貴幸
鳥取総局
専門・関心分野
自然生態系、環境問題