第5回「かれし なぐる」駆け込んだ交番 彼女が保護されなかったわけ

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 来日から約3年2カ月が経った2020年8月19日、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんは、静岡県内の交番に出頭し、「不法残留」(超過滞在、オーバーステイ)の疑いで現行犯逮捕された。

 出入国在留管理庁の調査報告書によると、それまでの約1年半、ウィシュマさんは在留資格のないまま所在不明になっていた。

 その間、ウィシュマさんは同居していたスリランカ人男性から家庭内暴力(DV)を受けていた疑いがあるという。

 報告書によると、出頭の翌日に警察から名古屋出入国在留管理局に引き渡されたウィシュマさんは「恋人に暴力を振るわれ、家を追い出されて、ほかに帰るところがない」と話した。

 強制退去処分が決まった時も、ウィシュマさんは同居中に男性から暴力を受けていたことや、薬を飲まされて無理やり中絶させられたことを職員に明かしたとある。

 しかし、ウィシュマさんに対応した名古屋入管局の職員たちは、収容される人物がDV被害者の可能性がある場合に決められていた保護の手続きを知らず、ウィシュマさんの訴えについても「痴話げんか程度」といった認識を持っていた。

 その結果、ウィシュマさんはDVに関する事情聴取や意思確認を受けることなく長期収容され、21年3月に33歳で死亡した。

 実際に暴力は存在したのだろうか。入管はウィシュマさんを保護すべきだったのだろうか。

出入国在留管理局の収容施設で何が起きたのかー―。2021年3月、名古屋の施設でスリランカ人女性が死亡しました。入管庁、遺族、関係者への取材から、その経緯と背景に迫る6回連載の5回目は、なぜ女性がDV被害者として扱われなかったのかに迫ります。

 17年6月29日、29歳だったウィシュマさんは、留学生として希望を抱いて来日した。スリランカ出発の日に撮影した写真には、母と2人の妹とともに笑顔を浮かべるウィシュマさんが写っている。

 決められた在留期間は1年3カ月で、18年9月29日までだった。

 私は21年の秋、千葉県内の日本語学校で学び始めた頃の様子を学校関係者に聞いた。はっきりとした答えが返ってきた。「学習態度はとてもよく、真剣で積極的だった。当初は欠席することもなかった」

 遺族によると、ウィシュマさんは、スリランカ西部の大学で英語を学び、インターナショナルスクールなどで英語の教師をしていたことがある。日本語学校を卒業すれば、夢見た日本での英語教師の道が開けていたかもしれない。しかし、来日から約半年後、ウィシュマさんの生活は少しずつ軌道から外れていく。

 入管庁の調査報告書と日本語…

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