「ひととき」投稿30年分をAI分析すると…「夫」に時代の空気感

メディア空間考

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メディア空間考 三橋麻子

 思いを伝えるため、言葉を選んでつづられた投稿。1951年に始まり、七十余年を経て、今も生活面に連載中の投稿欄「ひととき」には、そのとき、そのときの女性たちの思いが蓄積されている。

 であれば、その膨大な「蓄積」を単語ひとつひとつに分解して定量的に傾向を分析したら、社会の移ろいが見えるのではないか――。そんな試みに、エンジニア、記者などからなる社内外の横断チームが挑戦した。テキストマイニングと呼ばれる手法だ。題材としたのは平成30年間に掲載された約2万4千編の「ひととき」。これをデータベース化して単語ごとに分解し、10年ごとに前期・中期・後期にわけて傾向を調べた。

 ほかの時期に比べて、その時期に使われることが多い「特徴語」は何か。【前期】人権、デモ、公害、体罰、冷夏、好景気、プリントシール【中期】認知症パラサイトひきこもり、狂牛病、ミレニアム、ブログ【後期】スマホアラフォー、イクメン、サプライズ、放射能筋トレ、ヘアドネーション……と世相を表す言葉が並んだ。

 頻出する名詞と近くにある形容詞の間に、特徴的な関係があるものがないかも調べた。「子ども」「母親」など、いくつかの名詞を分析した中で、時代による移ろいが浮かんだのは「夫」。平成前期は「夫」の周囲に「寂しい」「遅い」「忙しい」などの形容詞が目立ったが、平成中・後期になると、前期では圏外だった「優しい」「おいしい」などが頻出した。

 今回の調査は朝日新聞の魅力を伝えたいと考えたマーケティング戦略本部の提案から始まり、AIの活用などに取り組むメディア研究開発センターと投稿を担当する文化くらし報道部が分析にあたった。朝日新聞では、読者投稿の分析は初めて。社内の多ジャンルの部署がひとつの企画に取り組むことも珍しく、深夜までチャットでやりとりが続いた日もあった。

 エンジニアとして分析にあたった浦川通さんは「頻出語としては母や娘など各時期を通して家族が登場するが、その一方で、社会のできごとも取り込まれている。読者の姿がみえて興味深かった」と話す。

 3月まで「ひととき」欄の担当デスクだった足立朋子さんは「言語分析では30年前は家庭での夫の不在感が満載で、時代の空気のようなものが伝わってきた。言葉の選び方によって時代の変化がみえる場合と見えない場合があり、試行錯誤もあったが、記者とエンジニアの協力で分析を深めていきたいと感じた」という。

 過去の膨大なストックは新聞社の大きな財産だ。これに最先端の技術を掛け合わせて何が生み出せるか。これからも挑戦を続けていきたい。

 ひとときの分析の詳細は以下のページからご覧いただけます。

ひととき分析ページ:https://info.asahi.com/choiyomi/hitotoki-ai/別ウインドウで開きます

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 みつはし・あさこ 朝日新聞文化部部長代理。記者、デスクとして主に事件・裁判取材に携わってきた。前職はコンテンツエディター。ツイッターは@mmmm_asako

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