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「残るか脱出か、どちらが危険かわからない」ウクライナの作家が寄稿

ウクライナ情勢

根本晃
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 「キエフにとどまるべきか、脱出を試みるべきか。いまとなってはどちらがより危険なのかわからない」――。ウクライナの国民的作家で、約40カ国語に翻訳された小説「ペンギンの憂鬱(ゆううつ)」などで知られるアンドレイ・クルコフ氏(60)が、緊迫する状況のなかで生き抜くウクライナの人たちの姿を朝日新聞に緊急寄稿した。

 10代の頃から川端康成三島由紀夫など日本文学を愛し、日本語も学んでいたクルコフ氏。ロシアによるウクライナ侵攻から10日後の今月6日に、原稿を寄せた。取材に対し、「日本は私にとって特別な国。だからこそ、ウクライナで何が起きているのか、日本の人々に知ってほしい」と寄稿の理由を語る。

 「日が暮れると、外出が禁止される時間になる前に、大勢のキエフの人々がメトロや防空壕(ごう)といった地下に駆け込んでいく。同じ防空壕に通う人々は、既にお互いに交流を始め、諸々(もろもろ)のことがらについて尋ね合っている」

 つづられているのは、ウクライナの村、そしてキエフの街で、人々が長い時間をかけて築いてきたささやかな日常が、突然の侵攻によって壊されていく様子。そして、それでも生きようとする人々の姿だ。「戦争の間も、こうして新たな出会いがある。子どもたちも防空壕で新たな知り合いを得る。狭苦しくも、色々な遊びをし始めている」

 旧ソ連のレニングラード(現サンクトペテルブルク)で生まれ、幼少期にキエフに移り住んだクルコフ氏は、これまで一貫して母語であるロシア語で作家活動を続けてきた。

 東京外国語大学の沼野恭子教授(ロシア文学)によると、クルコフ氏はロシアによるクリミア併合の翌年の2015年に来日した際、ロシア語で執筆し続ける理由を問われ、「ロシア語が支配者の言葉ではないことを示すために私はロシア語で書くのだ」と話したという。

 そのクルコフ氏が、寄稿の中で、街頭でロシア語を話す「恥ずかしさ」に触れ、「ロシア語を話すことが恥ずかしいのではない。ロシアという国が恥ずかしい」とつづっている。そして「私はもうロシアには二度と行かないし、本も出版しない」と明言する。

 沼野教授は「故郷が破壊され、人々が殺された。クルコフ氏の怒りの言葉に象徴されるように、ロシアが失った人々の信頼を取り戻すのに今後、数十年はかかるだろう」と話す。(根本晃)

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