「降伏とはロシアの人々になること」ウクライナ国民的作家の寄稿全文
アンドレイ・クルコフさん|作家(寄稿)
ロシア軍の侵攻を受け、ウクライナの国民的作家、アンドレイ・クルコフ氏が、朝日新聞に緊急寄稿した。
1961年生まれ。旧ソ連のレニングラード(現サンクトペテルブルグ)に生まれ、3歳のときに家族でキエフに移る。キエフ外国語大学卒業後、出版社勤務、オデッサでの兵役を経て、小説家に。約40カ国語に訳された「ペンギンの憂鬱(ゆううつ)」(1996年)で国際的なベストセラー作家に。マイダン革命を書いたルポ「ウクライナ日記」(2014年)など。
戦争は私の、そしてウクライナの人々の生活の一部になった
思い出は日々よみがえる。
およそ30年前、ユーゴスラビア紛争の取材で、クロアチアに10日間滞在した。シサクという街の近くから、ユーゴ紛争の前線を記録したルポルタージュをウクライナで初めて出版した。(親ロシア政権が倒れた2004年の)オレンジ革命にも参加した。汚職や官僚主義、不正な選挙の試み。ウクライナの抱えるこうした問題が、革命の力によって一掃されると期待したものだ。
幸福な日々もあった。15年、日本で私の著書「ウクライナ日記」が出版された際に、日本を訪れた。人生で最も大切な旅のひとつだ。13歳の時から日本文化に夢中だった。川端康成や大江健三郎、三島由紀夫を読み、俳句と短歌、旋頭歌(せどうか)もたしなんだ。18歳で日本語を専攻した。初めは40人ほどいた生徒のうち、修了できたのは6人だけだった。
毎年、1年の半分を世界各地で過ごしている。インドや中国、アメリカ、アイスランド、ノルウェー、ギリシャ。著書の翻訳のおかげで、世界中を訪れることができた。こうした思い出が、私を支えてくれるのだ。
この戦争が終わり、ウクライ…
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