震災伝えるこれからも 9日から被曝牛描く画家の個展 愛知

床並浩一
[PR]

 東日本大震災の原発事故で殺処分されず、その後も出荷できずに飼育され続けている牛を描く画家戸田みどりさん(72)の個展が9日、愛知県瀬戸市の教会施設で始まる。震災から間もなく11年。被曝(ひばく)の影響で息絶えていく牛たちの姿が、原発事故の記憶を風化させる人間たちに「事故から目を背けないで」と訴えかける。

 戸田さんは三重県出身で神奈川県在住。日本画家として「生ける水」をテーマに、静岡県を流れる柿田川など美しい川や海を描いていたが、東京電力福島第一原発事故による汚染水のことを知り、福島に心を寄せるようになった。

 事故から3年後の2014年、全町避難が続いていた福島県楢葉町でスケッチを開始。「人間の営みが消え、静止した風景が広がっていた」と戸田さんは振り返る。翌年には、畜産農家の吉沢正巳さん(68)が原発から20キロ圏内の家畜の殺処分を求める国の方針を拒み、約330頭を飼育していた福島県浪江町の「希望の牧場」を訪れ、「見捨てられた牛」をテーマに制作に取り組み始めた。

 除染が進まない避難指示区域で暮らす牛たちは、汚染された餌を食べるなど、内部被曝の危険にさらされていた。「聖なる光」と名づけた作品では17年の訪問時に出会った牛を描いた。脱毛が激しく、痩せてただれた皮膚に骨が浮き出ていた。最後の力を振り絞るように見つめる姿が印象的で、その1週間後に息を引き取ったという。「苦しいよと目で訴えられたが、ごめんねと伝えるほかなかった」と戸田さん。寿命は20年ほどと言われるが、7歳だった。

 130号(縦162センチ、横194センチ)のカンバスに描かれた牛も、腹から脚にかけて脱毛が痛々しく、悲しいまなざしを向ける。

 戸田さんは「わたしたち人間の代わりに生き証人となった。原発から離れたところで暮らすわたしたちも『我がこと』と受け止めたい。未来の子どもたちが安心して暮らせるためにいま何をすべきか、考えるきっかけにしてほしい」と話す。

 NPO団体代表として戸田さんを招いた教会の倉知契牧師(47)は「3・11や原発事故を終わったこと、済んだこととして忘れたくない。事故後に生まれた子どもたちも被災地に関心を寄せる機会にしてくれたらうれしい」。

 個展は瀬戸カルバリーチャペルで13日まで。13日午後0時半から戸田さんが話す。豊橋市の豊橋のぞみキリスト教会でも16~19日に個展が開かれる。いずれも入場無料。(床並浩一)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません