ロシア、フェイクニュースと見なせば禁錮刑に 欧米メディア取材停止

ウクライナ情勢

国末憲人=ロンドン 松尾一郎
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 ロシアのプーチン大統領は4日、ロシア軍の活動に関する報道や情報発信のうち、ロシア当局が「フェイクニュース」(偽情報)と見なした場合に、記者らに対して最大15年の禁錮刑を科せる法案に署名した。刑法に新たな規定を加えて改正する形がとられている。強力な情報統制が敷かれるなか、欧米主要メディアも相次いでロシア国内での取材活動の一時停止などを表明した。

 新たな刑法では、ロシア軍の行動に関して「信頼できる情報を装った明らかな虚偽の情報の流布」や、公の場での「軍事行動の停止の呼びかけや、軍の名誉や信頼を傷つける活動」を禁止している。国際的な民間団体ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、「偽情報の単純捏造(ねつぞう)」で最大で禁錮3年、「公的な立場や集団を使い、偽造した証拠などを用いた『偽情報』の拡散」に最大で禁錮10年、「社会的に危険な影響が伴う偽情報の拡散」に最大で禁錮15年の刑罰が規定されている。また、対ロ制裁を科すよう外国や国際機関などに呼びかけることも禁止され、違反者には最大で禁錮3年が科される可能性があるという。

 プーチン氏に近いロシア上院議長のマトビエンコ氏は4日の法案審議で、「我々の国や国民、軍人は(西側から)途切れることのない巨大なうそを浴びせられ続けている。これは事実上、我々の祖国を精神的、道徳的、文化的に破壊するための戦争だ」と主張した。

 プーチン政権は、2月24日に始めたウクライナ侵攻について、ウクライナ東部のロシア系住民を守るための「特別軍事作戦」だと主張している。

 タス通信によると、ロシア議会下院のヒンシュテイン情報政策・情報技術・通信委員長は4日、「ロシア人だけでなくすべての人が対象だ。なぜならロシアに対する敵対行為の問題だからだ」と述べた。

 モスクワに取材拠点を持ち、ロシア語での報道を続ける英BBCは4日、ロシア国内での取材活動の一時停止を発表した。ティム・デイビー会長は「独立したジャーナリズムの行為を犯罪としているようだ」と批判。「ロシア国内での全てのBBC記者とスタッフの任務を一時的に停止する以外に選択肢はない。スタッフの安全は最重要であり、仕事をしただけで刑事訴追を受けるリスクにさらす気はない」と話し、ロシア国外から報道を続けるとした。米ブルームバーグ通信とカナダ公共放送局CBCも、ロシア国内での取材活動を一時停止するという。米CNNとABC、CBSは、ロシア国内での放送を一時的にやめると発表。米CNNは「ロシア国内での放送を停止する。次の段階に踏み込むかどうか、推移を見守る」と表明した。タス通信によると、独ARDとZDFもモスクワのスタジオからの中継を一時停止した。

 編集長がノーベル平和賞を受賞したリベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」は、プーチン氏による署名直後、ツイッターで「ロシアの軍事検閲により、(軍事行動に関して)国防省の見解と異なる情報を広めたジャーナリストや市民が刑事訴追の危機にさらされている。そのため、私たちはこの話題に関する記事などを削除する」と表明した。

 ロシア当局はSNSの規制も進めている。ロシア当局は4日、米メタが運営するフェイスブック(FB)へのロシア国内でのアクセスを遮断すると発表。米ツイッターへのアクセスも制限されている。

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 朝日新聞社は、ロシアの新たな法律は報道の自由への重大な侵害と懸念します。適用範囲や運用状況などを詳しく把握できるまで、ロシア国内からの報道は一時見合わせます。(国末憲人=ロンドン、松尾一郎)

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