妊娠中から「男の子?女の子?」その問いの先には エリイさんの疑問

有料記事

聞き手・田渕紫織

 社会的な作品で知られるアーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom」メンバーのエリイさんは、一昨年に出産しました。子どもがおなかの中にいる時から、前もって性別を知らされないことを選び、出産後も性別は公表していません。「男の子? 女の子?」。妊娠中も出産後も聞かれ続けた問いの先に、気になる空気があったといいます。

 ――妊娠した時、前もって性別は知らされないようにすることを選んだそうですね。

 妊婦健診の問診票で「男か女か知らせない」という欄にチェックしました。助産師さんには、とても珍しいと言われました。

 エコー検査のたびに、産科医さんが男か女かぽろっと言いそうになるので、毎回、性別は言わないでくださいねと念押ししていました。

 ――出産後も、妊娠・出産経験をつづった新刊のエッセーでも、お子さんの性別は明かしていません。その理由は。

 私には公表する理由がわかりません。

 まず、男か女かは赤ん坊は自分ではまだわからないですよね。産んだ時に親が男の子だと思っても、実は本人の性自認はそうではないかもしれない。

 いまだに書類には男か女を選ぶ箇所があり、二択なのも怖いですね。私はそれに直面すると躊躇(ちゅうちょ)します。これはもちろん生物学的な性差の否定ではなく、あくまで社会的なジェンダー(性)規範に対して、大きな疑問があるからです。

 男女の区分けや、男らしさ・女らしさがいけないわけではなく、「らしさ」の強要につながる怖さがあるからです。

 新しい命を産みだすのに、そんな古い状況の認識による性別を当てはめてしまうのは、子どもに失礼じゃないかと思ったんですよね。

 もうひとつ、同世代や年配の方と妊娠や出産の話をしていても、一番最初に「男か、女か、どちらから教えて」と聞かれる。その問いの先にあるカテゴライズが怖かったです。

 ――どんなカテゴライズですか。

 ふだん、「男も女も関係ないよね」と話している仲良しの友達にも、子どもの話になると「男の子? 女の子?」と何度も聞かれて戸惑いました。その問いの先に何があるんだろうと思いました。

 私は昭和生まれですけど、息子が生まれて父親になった同世代の友達からは「昭和の男に育てていきたい!」とLINEが来ました。

 ほかの同世代との会話からも、いまだに「女の子だからお嫁に行く」「男だから強くて武骨」といったようなイメージのレールがうっすら敷かれているのを感じました。

 そういったバイアスなく産み育てたいと思い、「男の子? 女の子?」と聞かれたら、生まれた後も「私が決めることじゃないから、わからない」と返すことにしました。でもこれは、想像以上に自分との闘いになりました。

 ――他人とではなく、自分との闘い、ですか。

 妊娠中から、友人と会えば「…

この記事は有料記事です。残り1889文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

Think Gender

Think Gender

男女格差が主要先進国で最下位の日本。この社会で生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。性別に関係なく平等に機会があり、だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダー〈社会的・文化的に作られた性差〉について、一緒に考えませんか。[もっと見る]