「猫好きの聖地」となったパン屋 育てた女性が猫を飼わなかったわけ

ニュース4U

矢島大輔
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 「猫好きの聖地」と呼ばれるパン屋さんが、大阪・梅田の地下街にある。

 ふっくらした肉球を再現した猫の手パン。猫の顔の輪郭をした食パン……。

 「お客さんがそれぞれ好きな猫を投影しやすいように、個性的になりすぎず、絶妙な形を心がけています」

 製作担当のスタッフ、嶋野朱美さん(40)は言う。

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2(にゃん)が三つ並ぶ2月22日は「猫の日」です。にゃんが増える2022年は、ちょっと特別。身近な出来事を取材する「#ニュース4U」班は、みなさんの猫に関するエピソードを募集しています。飼い猫の写真も送ってみませんか。

 2月22日(猫の日)に、2022年は三つの2(にゃん)が加わるスペシャルな1日。

 大阪新阪急ホテル地下、創業1969年の老舗ベーカリー「ブルージン」は、今月末まで「猫の日」のフェスティバルを展開している。

 キャットタワー風の特注棚を中心に、店内には猫をあしらった10種18品のパンがずらりと並べられている。

 歴代の猫関連のパンがそろい、期間限定で2種類の商品も加わっている。

 いずれも嶋野さんがデザイン担当として関わった。

 お店の売り上げの3割は猫関連のパンが占める。

 扱うようになったのは2013年のこと。焼き菓子パンの目玉商品を作ろうと、食べ歩きができるチュロス風のパンを開発することになった。

 虎の尾や犬の手がデザイン候補だったが、嶋野さんは声をあげた。

 「それじゃひと目でわからない。猫の手がいいです」

 嶋野さんはオフィスの自席がグッズであふれるほどの猫好き。

 他の動物を念頭にしていたスタッフたちを尻目に、「好きだから」という理由で押し通した。

 以降、猫のフォルム(形状)のパンづくりが始まった。

 肉球を再現し、「猫の手も借りたい人に」とのキャッチコピーをつけて販売。17年には、猫の形の食パンを出した。顔を白地にして、お客さんが自由にチョコペンで顔を描けるようにした。

 空前の猫ブームもあって、これもヒットした。

志村けんさんのバカ殿に似ている猫たちとの出会い

 無類の猫好きな嶋野さんだが、それまで一度も飼ったことがなかった。

 幼少の頃から、つかず離れず「ツンデレ」な性格が好きで、グッズを集めてきた。

 しかし、命を預かる自信がなく、けがをさせないかと触ることさえ苦手。猫カフェに通い、遠巻きに眺めるのが精いっぱいだった。

 19年に病気が判明した。手術に踏み切れないでいると、同居するパートナーから励まされた。

 「ちゃんと手術ができたら、猫を飼おう」

 体調が戻ると、休日に猫用の柵や扉、爪研ぎを自らの手でつくり、迎え入れる準備を始めた。本やネットで飼育方法を学び、里親を探すサイトを眺めながら、「そのとき」に備えた。

 20年4月。高校時代の友人から久しぶりに電話がかかってきた。

 友人の実家の庭にすみついた野良猫が突然、4匹を出産したという。

 「猫と言えば、嶋野やろ?」。頼られたことが自信となった。約3カ月後、2匹を引き取ることにした。

 ちょうどコロナで亡くなった志村けんさんの追悼番組をやっていた時期。自由奔放で愛嬌(あいきょう)のある顔をする白地の猫は、志村さん扮するバカ殿になぞらえて「トノ」と名づけた。

 もう一匹は黒い毛並みから、逆さにして「ロク」に決めた。新しいスリッパで歩く足音におびえるほど臆病だが、その姿がいとおしい。

 2匹との共同生活で気づいたことがある。

 「猫を飼うと、誰かに写真を見せたくなる」。嶋野さんも5千枚ほどをスマホに撮りためていた。「猫のパンとも一緒に撮りたくなるのでは」とひらめいた。

 21年夏。ブームのマリトッツォ市場に参入することにした。クリームを挟み込むパン生地の形はもちろん猫。

 耳を丸々とすると熊っぽくなってしまう。角を立たせつつ、柔らかい耳を再現するのに1カ月かかった。

 販売を始めて10日で1400個が売れ、ツイッターでは2・2万もの「いいね」がついた。

 おさまらないコロナ禍で、多くの人びとが大変な日々を送っている。迎える今年の特別な「猫の日」。嶋野さんはこう願っている。

 「猫は幸せをくれる存在。一人でも楽しい気持ちになってくれたらうれしい」(矢島大輔)

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