国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説

国交省の統計書き換え問題

【動画】統計不正はどうやって起きたか。平田英明法政大教授がポイントを解説した=川村直子撮影
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国交省の統計不正問題、いま分かっていること

 国土交通省の統計不正が2021年12月15日に朝日新聞の報道で発覚した。政府は問題を認め謝罪したが、疑問点も残る。現時点でわかっていること、わかっていないことをQ&A形式でまとめました。新たな情報が明らかになるのにあわせて随時、更新していきます。

問題となった統計と不正の仕組みは

 Q 不正が行われていた統計とはどんなものなのか?

 A 建設業者が公的機関や民間から受注した工事実績を集計する、国交省所管の「建設工事受注動態統計」だ。国が特に重要だと位置づける基幹統計の一つで、2020年度は総額79兆5988億円だった。国内総生産(GDP)の算出に使われるほか、月例経済報告や中小企業支援などの基礎資料にもなっている。調査は、全国の約1万2千社を抽出して行われ、受注実績の報告を国交省が毎月受けて集計、公表している。

 Q 不正の内容は?

 A 国交省が、業者から提出された統計データの内容を無断で書き換えていた。書き換えていたのは、業者が受注実績を毎月記し提出する調査票だ。この統計が始まった00年4月から、同省が回収を担う都道府県の担当者に指示し、書き換え作業をさせていた。 具体的には、業者が受注実績の提出期限に間に合わず、数カ月分をまとめて提出した場合に、この数カ月分全てを最新1カ月の受注実績のように合算していた。作業は、この数カ月分の調査票の受注実績を都道府県の職員らが消しゴムで消し、合算した値を鉛筆で記入するという流れで行われていた。年間1万件ほど行われていたという。

 昨年末の臨時国会では、野党からは「原票を消しゴムで消したらまずい。子どもにも恥ずかしくて言えない」などと批判が噴出した。

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国土交通省の統計不正はどこに問題があり、どのような影響があるのか。その背景にある役所の体質など、専門家に読み解いてもらいました。

二重計上、統計への影響は

 Q 書き換え行為は統計にどう影響した?

 A 同じ業者の受注実績を2回集計する「二重計上」が生じて、公表される統計が過大なものになってしまっていた。毎月の集計では、調査票を未提出の業者の受注実績もゼロとはせず、同じ月の提出業者の平均を計上するルールがある。それに加えて後からもう一度、同じ月の受注実績を計上する形になってしまっていた。

 昨年末の臨時国会で、斉藤鉄夫・国土交通相が「不適切な処理があったことについておわび申し上げる」と陳謝。統計や法律の専門家を交えた検証委員会を設置し、真相を調べていた。

検証委が報告書を公表、ポイントは?

 Q 1月14日に公表された検証委の報告書の内容は?

 A 報告書は、データの書き換えによる二重計上が起きていたと認定した。問題が発覚しないよう、同省が、組織的に取りつくろうとしていた実態も明らかにした。

 委員長を務めた元大阪高検検事長で弁護士の寺脇一峰氏は14日の会見で「隠蔽工作と断定したわけではないが、見る人によって、そう評価されても仕方ない」と指摘した。

 報告書は約20年にわたっていた不正の全容を、①生データを無断で書き換えて数カ月分の受注実績を1カ月分ということに無断でしていたこと②二重計上が生じ統計が過大になっていたこと③外部から問題だと指摘された後の対応――、の三つに分けて検証した。

 Q ①の指摘内容は?

 A 書き換え行為は、この統計がスタートした00年4月から行われていた。歴代の担当係長らは聞き取りに対して、「(遅れてきた調査票を除外すると)建設業者から提供を受けた情報が無駄になってしまう」など釈明したという。それでも検証委は、「書き換えによって収集された有用な情報を損ねた点において不適切だった」と断じた。

 Q ②の二重計上については?

 受注実績を意図的に増やそうという動機はなく、「時の政権のために二重計上を生じさせたことは確認できなかった」とした。

 二重計上は13年度から生じていた。そのタイミングで行われた集計ルールの変更は、書き換えを続けた場合に二重計上が生じるものだったにもかかわらず、書き換えをやめていなかった。

 報告書は「(担当部署内での)情報の分断が生じていた」と原因を分析。統計部門に配置される職員の多くが専門知識や情熱に乏しく、前例踏襲が続いた可能性があることにも言及して、「不適切処理が永年無批判に継続して行われることとなった」と結論づけた。

 検証委の寺脇委員長は「統計全体をしっかり見ている方がいなかったから、(二重計上が)わからなかった。わざとやったものではなく、お粗末ということだ」と指摘している。

表面化を避ける工作も

 Q ③の事後対応の問題とは?

 不正を公表して是正する機会が何度もあったにもかかわらず、そのたびに、省内では問題の矮小(わいしょう)化や表面化を避ける工作が図られていたという。

 大まかな流れはこうだ。

 18年末に発覚した厚生労働省所管の「毎月勤労統計」の不正を受けて政府は19年1月、基幹統計が適切に調査されているか調べる一斉点検を実施した。この際、当時の係長が「報告した方がよい」と考え、上司の課長補佐らに相談していたが、上司が消極的だったため報告が見送られていた。

 同4月以降は、新任の中堅幹部が書き換え行為に気づき、上司である担当部署の室長にやめるべきだと訴えたが、是正に動くことはなかった。

 同11月には、書き換えの問題について外部から指摘も受けていた。気づいたのは会計検査院。これを受け同省は20年1月、局長級の幹部らも含め、書き換え行為について対応を協議。「合算を一切やめるべきだ」との意見もあったが、都道府県に書き換えの取りやめを指示する一方で、場所を本省に移して、本省職員が書き換え作業を続ける方針が決まった。判断したのは、局長級の高級幹部である政策立案総括審議官や担当課長だった。

 以降、不正を隠しながら組織ぐるみで意図的に改ざん行為を続けた。現場の職員らは、書き換え前のデータを消さぬよう記入欄の上にマスキングテープを貼り、その上に本省職員らが数字を書き加える手法をとった。

 「(統計を所管する)総務省に相談すべきだ」と指摘する会計検査院に対しては、「時間がかかるから待って」とし、20年10月には、総務省統計委員会の分科会に対し、関連する参考資料を潜り込ませるような形で提出し、書き換え行為が「あたかも承認されたように装っていた」(報告書)という。昨年4月分の統計からは書き換えをやめたが、この際も対外的に説明していなかった。

 検証委は一連の行為をこう断じた。「問題が表沙汰にならない形で収束させようとした」

国会答弁の整合性は?

 Q報告書で明らかになったことと、これまでの国会答弁の整合性に問題はないのか?

 A 斉藤鉄夫国交相は昨年末の臨時国会で、会計検査院から指摘された後も、国交省本省で書き換えを続けていた事実を認めている。「決して正当化しているわけではない」と断りつつ、「一時的に必要な作業は国交省において行わざるを得なかった」と釈明した。「統計の連続性」を確保するためだったとして、「対前年度の比較というのは統計の非常に大きな要素となる」と主張していた。

 こうした主張を疑問視する声は少なくない。野党からは「間違った統計同士を比較する理由がわからない。これまでの統計を正当化するため大きく激変させないようごまかすためでは」との批判が出た。専門家の間には「統計は正しいデータをもとにするのが大前提で、間違った数字で比較すること自体が統計学上、論外。データが実態と違うことを把握しながら是正せず放置していたことは問題だ」との声もある。

 さらに、現職官僚の間にも「矛盾だ」との声がある。国交省は20年1月の前後で、二重計上する量を変更したからだ。

 具体的には、業者からまとめて提出された数カ月分の受注額を合算し、最新1カ月の受注額のように書き換える際の合算量を、「全ての月」から「2カ月」に減らした。経済官庁の幹部は「比較のためと言うのなら、前提が同じでなければ」と疑問視し、身内である国交省内からですら「論理破綻(はたん)だ」との声が漏れている。

補正予算の審議への影響は?

 Q 政府は20年1月以降の統計は「修正済み」としていたのでは?

 A 国交省は昨年末の臨時国会で、本省職員が昨年3月まで書き換えをしていた一方で、並行して「改善された方法」でも集計していたと説明。これを踏まえて政府は、統計は正しく修正されているため、補正予算の審議には影響しないと説明していた。

 ただ、この主張についても疑問の声が出ている。国交省が「修正済み」とした統計のなかに、書き換えられたデータが混ざり、一部、二重計上が生じている可能性があることが新たにわかってきたからだ。

 国交省は会計検査院の指摘後、20年1月に都道府県に書き換えをやめるよう指示したが、徹底されていなかったことが朝日新聞による都道府県への取材で明らかになった。国交省も1月14日に、この事実を認めて、該当する期間に書き換えられた可能性のある調査票が1389枚あることを公表。影響の調査を進めている。

 政府は昨年末の臨時国会で20年1月以降の統計について「修正した」と答弁していただけに、与党内からも政府のこれまでの見解との整合性を問う声が出ている。24日の衆院予算委員会では、自民党の宮崎政久衆院議員が当時の答弁について質問し、斉藤国交相が「20年1月以降の数値にも正確とは言えない部分があったと考えている」と認めた。野党は「数字は正しくなっているということで補正予算の審議に応じたが、結果として正しい数字ではなかった」と指摘している。

 Q 国は書き換えの影響を過去にさかのぼって全て調べるのか?

 A 書き換えによる二重計上が生じたのは13年度からだ。それ以降に公表されてきた統計はいずれも、二重計上により過大になっていたことになり、調査して正しい統計に訂正する必要がある。国交省は過去にさかのぼって影響を検証するため、統計の専門家らも交えたチームを立ち上げ、過去の統計がどれだけ過大になっていたかを調べる作業を始めた。

 ただ、書き換え前のデータが残っていない期間もあるとみられ、場合によっては、過去の統計の数年間分が、不正な数値しか存在しないという異常事態になってしまう恐れもある。

政策への影響も

 Q GDPや政策への影響は出ているのか?

 A 政府は書き換えによるGDPへの影響は限定的だとしている。山際大志郎・経済再生相は昨年末の臨時国会で、「間接的にGDP統計にも影響が及ぶ可能性はあるが、その影響の程度は仮にあったとしても現時点では軽微と考えている」と答弁した。

 ただ、識者からは「GDP全体に占める内訳としてはそこまで大きくないものの、GDPの成長率への寄与という点では無視できない影響を与えた可能性がある」(平田英明・法政大教授)といった声も上がっている。これらの点についても、国交省の調査チームなどが精査を進めることになる。

 Q ほかに影響は?

 A 中小企業支援の政策にはすでに影響が出ている。昨年12月28日、経済産業省の中小企業向けの支援策で、対象業種を選ぶ判断ができなくなっていることが公表された。本来受けられるはずの支援を、受けられない企業が出てくる可能性があり、政府は金融機関に協力を求めるなどの対応に追われた。

国交省の幹部らを処分

 Q 人事上の処分はどうなっているのか?

 A 国交省は1月21日、事務方トップの山田邦博・事務次官や当時の幹部ら計10人を処分した。処分対象者のうち、8人は当時の統計部門の責任者の政策立案総括審議官や建設経済統計調査室長ら。このうち7人を減給(1~3カ月、10%相当)や戒告の処分とし、1人を訓告とした。山田事務次官と国交審議官の2人はそれぞれ、監督責任を問うかたちで、訓告とされた。すでに退職している当時の幹部1人については処分相当として、減給相当額の自主返納を求める。

 斉藤国交相と副大臣、政務官の計6人は就任時からの4カ月分の給与などを自主返納する。

今後の焦点は?

 Q 今後の動きは?

 A 野党は開会中の通常国会での集中審議を求めており、政府を追及する構えだ。検証委が報告書で「極めて短期間に実施し、調査手法が限られた」と述べたように、なお未解明の点も少なくない。政府としては、毎月勤労統計の反省を生かすことができなかったことも踏まえ、実効性のある再発防止策の打ち出しや、統計に関する人材配置の根本的な再検討を迫られることになる。

 1月25日には、書き換えによる二重計上の影響で、20年度の統計が約4兆円過大になっていた疑いがあることが朝日新聞の報道で明らかになった。実績全体の5%に相当し、巨額の訂正が必要になる。これまで政府は「GDPにおける影響は軽微だ」としてきたが、統計がどれだけ過大だったか、その影響自体は国交省が検証中で結果はまだ出ていない。GDPは予算編成に密接に関わるだけに、政府にとって火種になりかねない。

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