大学院生の死「彼は私だったかも」 当事者がアウティングの実態出版

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藤野隆晃
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 その人の性のあり方について、同意なく第三者に伝える「アウティング」。性的少数者の当事者が、あまり知られていない被害の実態や課題などをまとめ、出版した。被害にあった当事者が亡くなった例もあり、深刻な影響を与えることを広く知ってほしいと願う。

 「彼は私だったかもしれない」

 ゲイを公表している松岡宗嗣(そうし)さん(27)は、同性愛を暴露された一橋大の大学院生が命を落としたと報道で知り、思った。

 松岡さん自身もアウティングをされた経験があった。高校卒業後、友人にカミングアウトした。多くの人が受け入れてくれたが、伝えたつもりのない友人に「お前、ガチでホモだったのかよ」などと言われた時には、息が詰まった。

 亡くなった大学院生は、告白した学生からグループラインに「おまえがゲイであることを隠しておくのムリ」などと送信された。精神的に不安定になり、2015年8月、大学の建物から転落死した。

 遺族は大学などの責任を問うために民事訴訟を起こし、松岡さんも傍聴した。20年11月の東京高裁判決は、大学側の責任は認めなかったが、「アウティングは人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為」と認定した。

 松岡さんは裁判を通じ、当事者と、そうでない人とでは、認識の差があると感じたという。アウティングされることによって、家族や友人との関係が悪化しかねない。アウティングに関する本が少ないことから、自ら本を書こうと決めた。一橋大で起きたことのほか、カミングアウトを強制され休職まで追い込まれた事例や、交際していた当事者間で別れ際にアウティングが使われたケースなども盛り込み、「あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?」(柏書房、税込み1980円)を昨年11月に出版した。

 松岡さんは「『アウティングはダメ』でとどまるのではなく、なぜ命が失われるほど深刻なのかを考えるきっかけにしてほしい」と願う。

一橋大では学生らが理解深めるため活動

 アウティング被害が起きた一橋大では、性的少数者への理解を深めるための活動が広がっている。

 大学内の研究棟には、多様性…

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