「川を取り戻し、サケを取り戻し、生活を取り戻したいのです」

 法廷で訴えた。

 アイヌ民族の差間(さしま)正樹さん(71)。

 北海道東部の太平洋に面する浦幌町で、父親の後を継ぎ、海でサケの定置網漁をしている。

 地元のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」の会長を務める。「ラポロ」は浦幌の由来となったアイヌ語だ。

 2020年8月、アイヌ民族が地元の川でサケを捕獲するのは先住民族の権利(先住権)だとして、法律で禁止されている川でのサケ漁を認めるよう国と北海道に求めて、団体として札幌地裁に提訴した。

 「私たちの先祖は、川で刺し網漁をしていました」

 訴状などによると、ラポロアイヌネイションの11人の会員の先祖は、遅くとも江戸期には浦幌十勝川でサケ漁をしていた。浦幌十勝川でのサケ漁は、札幌県(現在の北海道)が1883(明治16)年に禁止した。原告側は、和人の開拓民による乱獲からサケを保護するという名目で、アイヌ民族からサケを捕る権利を奪った、と主張する。

 サケはアイヌ民族にとって「カムイチェプ」(神の魚)とされ、主要な食料であり、交易品でもあった。自然に、川沿いに生活空間ができた。今も続くサケを迎える儀式「カムイチェプノミ」は、民族の文化的、精神的な柱となってきた。

 現在、北海道内の河川ではアイヌ文化の伝承、保存目的に限り、知事の許可を受ければ例外的にサケ漁が認められる。しかし、差間さんたちが求めているのは、生計を立てるために川でサケを捕る権利だ。

 その差間さんは長い間、自分がアイヌだと明かさないで生きてきた。

 大学入学に必要になり、戸籍を取り寄せた。祖父と祖母の欄に「エコシップ」「モンノスパ」とあった。

 「この人は?」

 母は何も言わなかった。両親は亡くなるまで、自分たちの出自に関する話題を避け続けた。

 親戚の顔立ちなどから、薄々気づいていた。周りにも知られていた。

 中学校では同級生に取り囲まれ…

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