調査せず「いじめなかった」と校長ら発言 敗訴した川口市、控訴断念

堤恭太

 いじめで不登校になった埼玉県川口市立中学校の元男子生徒(19)が市教育委員会を訴えた損害賠償訴訟で市側が敗訴したことを受け、奥ノ木信夫市長と茂呂修平教育長が24日会見し、「長きにわたって元生徒に心身ともにつらい思いをさせたことについて心からおわびします」と謝罪した。元生徒のことを第一に考えて控訴しないことも明らかにした。

 元生徒側は学校や市教育委員会の不適切な対応で学校に戻れず、教育を受ける権利を侵害されたと主張。15日のさいたま地裁の判決は、元生徒側の550万円の請求に対し55万円の支払いを命じた。そのうえで、いじめが発生したことを知りながら重大事態として調査せず、校長らが「いじめがなかった」と発言したことは違法と断じた。元生徒の部活動の顧問教諭による体罰も認定した。

 奥ノ木市長は、市教委の対応が文部科学省や県教委など各方面から批判されているさなかの2019年10月に茂呂教育長を再任させている。この人事に批判が出たことに対し、市長は「市立高校の開校など教育行政の課題が多く、再任させた」と説明した。

 市は昨年度から、いじめ対策の行政職の法務担当2人を市教委に送り込んだが、その後も国や県教委などから指摘を受けている。市教委の担当者は「2人は昨年度は40件、今年度は20件の問題に取り組んでおり、市教委の力になっている」と答えた。

 法廷で市教委が「いじめ防止対策推進法は欠陥がある」と主張した点について、担当者は「同法の運用は現場では困難な点があることを伝えるために主張した」。第三者委員会の報告書を受け、市はいったん陳謝したにもかかわらず、裁判で争う姿勢に転じたことについては「報告書が認めた事実は損害賠償には当たらないとして裁判を進めた」と説明した。

 判決確定を受けた当時の関係者の処分に関しては「早急に事情聴取したうえで報告書を県教委に提出し、判断を仰ぎたい」とした。

 元生徒側は生徒本人への謝罪を求めているが、市教委は「実現していないことについては申し訳なく思っている。元生徒の意向を聞いたうえで対応したい」とし、教育長と当時の校長らが謝罪に訪れ、卒業証書を手渡す考えを明らかにした。

 元生徒の母の森田志歩さんは「『控訴しない』『謝罪する』と決めたなら、会見の前に本人に伝えるべきではないか」と話した。(堤恭太)…

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