本物そっくり仏像を3Dプリント 相次ぐ罰当たりな行為に学生ら対抗

国方萌乃
[PR]

 仏像を盗難から守ろう――。和歌山県海南市の大崎観音堂にまつられている釈迦像のレプリカ「お身代わり仏像」が今月、完成した。県内の高校生と大学生が力を合わせて作ったもので、本物と置き換えて仏像の盗難を防ぐ活動の一環。これで30体目になる。19日には生徒たちから地元住民へ「奉納」される予定だ。

 レプリカが作られたのは、観音堂がある大崎地区で海上安全や厄よけを願って信仰されてきた「宝冠釈迦如来坐像(ほうかんしゃかにょらいざぞう)」。高さ35・7センチの銅製で、表面に金箔(きんぱく)が貼られている。県立博物館によると、室町時代に作られたものという。本物はすでに博物館で保管されている。

 本物そっくりにできあがった。レプリカはプラスチック製で、作製には県立和歌山工業高校産業デザイン科の生徒が昨秋から取り組んだ。専用のカメラを使い、本物に360度から光を当てて造形をスキャン。収集したデータをパソコンに取り込んで微修正したあと、3Dプリンターで出力した。

 装飾は和歌山大学教育学部の美術教育を専攻する学生が担当した。アクリル絵の具で釈迦像の表情や表面の金箔を忠実に再現した。

 この活動は博物館が中心となり、2012年にスタートした。当時、県内で仏像の盗難が問題になっていた。博物館によると、10年春ごろからの約1年間で、少なくとも172体が盗まれたという。被害に遭った場所のほとんどが、地域住民で管理する無人の寺社だった。

 仏像の盗難は単なる損失にとどまらず、地域のシンボルを奪われた住民の精神的な被害も大きい。そこで博物館は本物を館内で管理し、レプリカを「お身代わり」として置くことを考えた。和歌山工業高校と和歌山大の協力を得て、これまでに15カ所29体をレプリカに置き換えた。

 地域のシンボルがレプリカでいいのだろうかという疑問が浮かぶ。しかし、博物館の大河内智之・主任学芸員は「作った生徒が自ら地域住民に『奉納』することが大事」と話す。生徒たちが作製時の苦労を語ったり、住民が地域の実情を伝えたりして、単なるレプリカとしてではなく、作製までの物語を持った新たな象徴として受け入れてもらえることを望んでいる。

 今回、「お身代わり」を受け取る大崎地区では、奉納に向けて住民が久しぶりに観音堂をそうじした。谷上昌賢(しょうけん)区長(74)は「子どもたちに、この仏像が地元でどんな風に信仰されてきたものなのか伝えたい」と楽しみにしている。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません