街頭での差別的言動は減少、でもネットは…ヘイト「禁止」条例の2年

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佐藤英法

 【神奈川】外国にルーツを持つ人たちに対するヘイトスピーチに刑事罰を科す、全国で初めての条例が川崎市議会で成立してから、12日で2年が経った。街頭で差別的な言葉を連呼する活動には一定の歯止めがかかった一方、インターネット上での差別的な投稿は消えていない。

 「言論弾圧につながるような、いわゆるヘイトスピーチ条例などを許してはいけない。弾圧には絶対に負けない」。12日午後、JR川崎駅前。多くの警察官が警備に立つなか、日の丸や旭日(きょくじつ)旗を掲げた集団が街頭演説をした。交代しながらマイクを握り、1時間以上に及んだ。最後に集まった約20人が「日本、万歳」と声を張り上げた。

 街頭演説は事前に告知されていた。周辺には差別に反対する人たち数十人が集まり、「レイシスト、帰れ」と連呼し、太鼓を打ち鳴らした。条例制定後も川崎駅前などでは演説と抗議が交錯する騒然とした光景が繰り返されてきた。

 「制定後に街頭での直接的な差別的言動は減ったと感じる」。在日朝鮮人3世の崔江以子(チェカンイヂャ)さん(48)はこう話す。

 川崎区で生まれ育った。川崎市が設けて社会福祉法人青丘社が運営する、多文化共生施設「川崎市ふれあい館」の館長を務める。

 2015年から翌年にかけて、市内で在日コリアンの多く住む地域に、「半島に帰れ」「敵国人に対して死ね、殺せというのは当たり前だ」などと大声で訴えるデモ隊が押し寄せた。

 「身近な生活圏に襲ってきた。地域の人たちは傷ついて分断される。行政に守ってほしい」。崔さんは国や市に法的整備を求めた。

「わたしたちや、子どもたちの未来を守る盾になる」

 訴えは国会を動かした。16年にヘイトスピーチ対策法が成立。国や自治体に相談体制の整備や人権教育の充実などを求めたが、罰則は無い、いわゆる「理念法」だった。

 一方、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」は全国で初めてヘイトスピーチに刑事罰を科すことに踏み込み、2年前の12日に市議会で可決、成立した。段階的に施行し、昨年7月に全面施行された。

 条例は、道路や公園などの公共の場所で拡声機を使うなどして差別的言動をすることなどを規制する。

 刑事罰に至るには厳格な要件がある。罰則は昨年7月に施行されたが、まだ科された事例はないという。

 崔さんは「刑事罰を設ける条例は宝物。わたしたちや、子どもたちの未来を守る盾になる。全国に届けたい」と話す。

ネット上、絶えない差別的言動

 インターネット上の書き込みについては、市長が憲法学者や元裁判官らでつくる審査会の答申を踏まえて拡散防止措置や内容の公表を行うとの手続きを定めた。

 ネット上には差別的言動が絶えない。市はこれまでに51件について事業者に削除を要請し、38件が削除されたという。

 ネットの書き込みや街宣について審査会への諮問は市が判断している。崔さんが加わる「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」は「職員だけで諮問の適否を判断するのではなく、明らかに該当しないもの以外の差別的言動については、すべて審査会に諮問し、有識者の審議を求めること」と主張する。

 福田紀彦市長は6日の記者会見で、「条例に明確に触れるような言動というのは減っている。一定の効果はある」と振り返った。そのうえで、「この条例が全てを解決するものではない。啓発から、教育の部分を含めて、あらゆる差別を生まない土壌をしっかりと育てていくということは、引き続きやっていかなければならない」と課題を挙げた。

条例で刑事罰の対象となる行為

・川崎市内の公共の場所で…

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