「究極の個人情報」どう守る 拡大するゲノム医療、進まぬ法整備
人によって異なる遺伝情報をもとに、その人に合った治療薬などを探す「ゲノム医療」を厚生労働省が進めようとしている。遺伝情報は将来の病気のリスクなどもわかる可能性がある。「究極の個人情報」を守る法整備が課題となっているが、議論は停滞したままだ。
遺伝情報のデータベース計画 米国ではトラブルも
遺伝情報を医療に生かす――。その試みは2013年、米俳優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査で乳がんのリスクがわかり、予防のために乳腺を切除したことで広く知られるようになった。
厚労省は19年、生物がもつすべての遺伝情報「全ゲノム」の大規模データベースをつくる遺伝子検査の国家プロジェクト「全ゲノム解析等実行計画」を立ち上げた。目標は、治療法のない患者に新たな治療を提供すること。まずは、がんと難病を対象に、全国約20の医療機関や研究機関が協力し、約9万2千人のゲノムを同意を得て集めて創薬などに生かす。その後、病気の対象も広げていくことをめざす。今年の「骨太の方針」にも推進を明記した。
これまでは保存していた血液などの検体を解析していたが、今年10月から一部の医療機関では、解析結果を返す前提で、新たな患者から検体を採り始めた。結果は年内にも患者に伝える。患者の遺伝情報に応じた治療薬を提案するなど、より効果の高い医療を提供できる可能性もあり、参加する患者にとってもメリットはある。
一方、主に健康な人を対象に、医療機関を介さない民間の遺伝子検査「DTC検査」も広がっている。個人の遺伝情報の解析結果は、その人が将来、病気を発症するリスクなど、機微な情報を含む。
米国では学者やジャーナリストの団体が00年ごろ、遺伝情報が原因で保険加入を拒否されたり、解雇されたりする例が相次いでいると公表。世論の高まりを受け米政府は08年、遺伝情報差別禁止法を制定した。遺伝情報をもとに雇用主が従業員を解雇したり、生命保険会社が保険加入を拒んだりすることを禁じた。フランスや韓国などでも遺伝情報による差別を禁じる法律が整備されている。
専門家「医療推進と差別禁止は車の両輪」
日本では法整備が進んでいな…