がん治療後も続く苦しみ「暗い海で見つけた浮輪」 マギーズ東京

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聞き手・上野創
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 がん経験者や家族がくつろぎながら悩みを話し、相談する「マギーズ東京」(東京・豊洲)が10月に5周年を迎えました。「家でも病院でもない第3の居場所」はなぜ必要なのでしょうか。ある利用者は「暗い海に浮かぶ浮輪だった」と表現し、別の女性は「消化しきれない迷いを何度も聴いてもらった」と語ります。2人に話を聴きました。

職場復帰後に気持ちが…… 50歳で告知うけた会社員男性は

 マギーズ東京で話し、黙り、また話し、と繰り返すうちに「心のフタが開いて感情があふれ出た」と言うのは、埼玉県久喜市の会社員、河野順さん(56)。がんの治療が終わったのに、気持ちが落ち着かず、説明できないつらい思いがずっと続いていたと言います。

 マギーズ東京ができた翌月の2016年11月に精巣腫瘍の告知を受けました。このときは手術だけでしたが、今から3年前にリンパ節に転移・再発が見つかり、抗がん剤を3カ月受けました。春には退院し、職場にも復帰したけれど気持ちが晴れないんです。急に寂しさが押し寄せたり、孤独感に苦しんだり。心がざわざわした。自分でも説明がつきませんでした。

 娘が2人いるのですが、周りに心配や迷惑をかけたくない、という気持ちが強く、家族との折り合いも悪くなって。

 そんなときにマギーズを知りました。ホームぺージも調べたけれど、迷って行けなかったんですが、会社の保健師さんから「まずは行ってみれば」と背中を押され、19年6月に初めて訪れました。

 女性が笑顔で迎えてくれました。建物に入ると木の香りがして心地よかった。いろいろなクッションが乗ったソファに座ると、温かいお茶が出てきました。まずは一息。いきなり話すのではないのが良かったんだと思います。

 病気の経緯に始まり、絡まった気持ちを少しずつ話しました。途中で涙も出た。沈黙する時間もありましたが、女性はずっと待ってくれました。分かってもらおうと、僕は自分の気持ちを表すのに一番しっくりくる言葉を選んでいた。ぽつりぽつり、と話しました。

 そうしているうちに、心の奥底にあった感情が湧き出しました。フタが外れて、つらかったことが見えてきました。社員でも夫でも父親でもない素の自分になれた。殻を脱ぎ捨てたような感覚です。

 今思うと、暗くて波の立つ海面でおぼれかけていたようです。船は行き交うけれど、誰も僕には気づかないと思っていた。実は、周りに浮輪がたくさんあるのに、気づかないのは僕の方だった。でも一つの浮輪にしがみつくことができた。それがマギーズ東京でした。

 一気に解決したわけではあり…

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この記事を書いた人
上野創
横浜総局
専門・関心分野
教育、不登校、病児教育、がん、神奈川県、横浜市