「雪女」を出雲弁で 古本屋の客たちが「翻訳」し出版

榊原織和

 【島根】松江市の小さな古本屋に集まる客たちが、小泉八雲の怪談「雪女」を出雲弁に翻訳し、本にまとめた。それぞれが考える出雲弁の違いや物語の解釈について議論を重ね、完成まで4年近く。ただの翻訳ではなく、議論の面白さもたっぷり詰め込んだ「雪女」が仕上がった。

 「出雲弁で『雪女』」は、A5判59ページ。本を開くと右ページに出雲弁で書かれた物語があり、左ページには言葉の注釈が細かく記されている。

 翻訳の取り組みが始まったのは、2017年11月。松江市西茶町にある10畳ほどの広さの古本屋・冬營舎(とうえいしゃ)で、客の一人だった松江市の団体職員、板倉和夫さん(56)が企画した。

 板倉さんは出雲市出身。県外で就職したが、離れて出雲弁への思いが募ったという。異動で松江に転勤になったのを機に本の翻訳を思いつき、古本屋の常連客らに参加を呼びかけた。

 月に一度、夜に集まり、多いときは10人余りで一文ずつ翻訳していったが、年齢も職業も様々な参加者の間で、判断が分かれる場面が多々あった。

 例えば、物語序盤の「おじいさんはしばらくして寝られた」という一文。「寝なった」か、「寝らいた」とするかで議論になった。今回は、八雲に怪談を語って聞かせたという松江出身の妻セツの言葉を表現することをめざしたため、松江周辺でよく使われる「寝なった」を採用した。

 同じ出雲弁でも松江市と出雲市、年齢や性別で言葉や使い方が違う。多人数で翻訳していくうち、「一人に一つの出雲弁」があることを実感したという。

 約1年、10回の集まりで最後の一文までたどり着いたが、訳を精査したいという参加者の希望で2周目に。もう1年かけて完成とした。参加者は総勢30人にほどになった。

 板倉さんは、議論の中身を少しでも反映させようと、さらに1年以上かけて詳しい言葉の注釈を作った。恋の駆け引きのような雪女との出会いの場面の解釈など、翻訳からそれて熱く議論になった話題もコラムにまとめた。「出雲弁の話し手なら、文字を見るだけで音が聞こえてくると思う。ふるさとの言葉を改めて好きになってもらえたら」と話す。

 税込み700円。冬營舎と今井書店の「TONOMACHI63」(松江市殿町)で販売されている。(榊原織和)…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません