第3回近づくオバマ氏、最前列の葛藤 「アメリカ憎しは消えとらん」けれど

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編集委員・副島英樹
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 2016年5月27日夕。米国のオバマ大統領(当時)が広島を訪れた。広島・長崎に原爆を投下した米国の現職大統領が、初めて被爆地に足を踏み入れた瞬間だった。

 歩み寄ってきたオバマ氏の手を握ったまま、必死にメッセージを伝えようとする高齢男性の姿があった。

 坪井直さん。当時91歳。オバマ氏とハグした被爆者の森重昭さんの名とともに、坪井さんの名はヒバクシャの代表として世界に発信された。この歴史的瞬間の背景には、「謝罪」をめぐる駆け引きと葛藤があった。

      ◇

 オバマ氏が平和記念公園に到着したのは午後5時半ごろ。記者は公園西側の報道エリアからカメラの望遠レンズでその姿を追った。

 平和記念資料館を出た後、オバマ氏は慰霊碑に献花し、17分間の演説をした。その前方の、約100人の招待客の最前列にいたのが坪井さんだった。

 午後6時すぎ。オバマ氏が近づくと、坪井さんは左手で杖を突きながら、はねるように立ち上がった。

 2人のやりとりは距離が離れていて聞こえなかったが、間近で取材した記者の話や報道映像などを確認すると、「広島に来てくれてありがとう。大歓迎です」「プラハのあれが残っとるはずじゃ。被爆者は、あなたと一緒にがんばる」などと伝えていた。

 オバマ氏は「ありがとう」を繰り返し、笑顔を絶やさなかった。

「いらんこと言ったんじゃないかと、寝らりゃーせん」

オバマ氏と面会した後、坪井さんは朝日新聞のインタビューにそう語りました。ポッドキャストでは「アメリカ憎しはなくなっちゃおらん」と言いながら、謝罪を求めないと決めた葛藤を、坪井さんが肉声で語っています。

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 オバマ氏の広島訪問が実現したのは、米国側に「日本は謝罪を求めない」という確信があったからだった。

 坪井さんはその下地をつくった一人だとも言える。

 「謝罪しないなら来るな」か…

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