がんの妻の代わりに…でも面倒だった料理エプロン「軽いのを作ろう」

織井優佳
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 病気になった妻に代わって食事作りを担い始めた鎌倉の男性が、自分が欲しいエプロンを作ろうと思い立った。「なんか面倒」とエプロンに手が伸びなかった実感を元に、一般的なTシャツより軽い1枚120グラムに仕上げた。追求したのは「軽く、ちゃちゃっと着けられる」だ。

 神奈川県鎌倉市で飲食店のIT支援などを行う会社を営む吉原亘さん(47)を昨年1月、妻の乳がんという衝撃が襲った。たまに料理を作っても、いつもは「手伝ってよ」という妻の声を聞き流してきた。それが手術後、妻は手が上がりにくくなり、家族の食事の支度や片付けを吉原さんがすることになった。

 コロナ禍で在宅勤務が増えたこともあり、軽装でエプロンをしないまま洗い物や調理をしても汚れは気にならなかった。でも、1年以上経ったある日、出がけに外出着に目立つ汚れが飛び、あわてて着替える羽目に。「エプロンは必要だ」。その気になって探したが、ひらひらデザインか業務用の分厚いものしかなく、「暑そう、重そう」とつける気になれなかった。

 「欲しいものがないなら作ろう」。動きやすさと軽さを追求し、今年4月に試作を始めた。前掛け部分は幅57センチの正方形で、通常のエプロンより短めのひざ丈。少しでも軽く原価も抑えようとポケットをなくした代わりに、左右の巻き込みを浅くし、服のポケットに手を入れやすくした。

 胸当ても小さめ。方眼紙を買ってきて1センチ単位で切り貼りし、全部直線の形状に行き着いた。首掛け式は「暑そうで肩も凝りそう」と、肩掛けしたひもを背中でたすき掛けして結ぶ方式を採用した。ボタンやDカンも使わない。性別や身長を問わないシンプルなデザインになった、と吉原さんは自負する。

 リサーチの過程で、300円ショップで買えるエプロンもあると知った。「どれも外国製です。国内では縫製や染色が産業として成立しにくくなっていて驚いた。今、あえて作る以上は、素材や『国産』にこだわろうと思いました」

 アパレルの知識がなく、製品化まで試行錯誤は続いた。耐火性、耐久性から素材は木綿、それもオーガニックコットンと決めた。生地の染色は4反(エプロン200枚相当)単位でないと割高になると知り、頭を抱えた。

 「縫製後の後染めもできる」と聞いて飛びついたが、今度は生地本来の生成り色を漂白できず、素材の扱いにくさを思い知らされた。横浜市鶴見区の染色工場に通って試し染めを重ね、少しくすんだ色調ながら目指すロイヤルブルーを実現した。

 「コロナ禍で縫製も染色も仕事が減り、小ロットでも受けてくれる工場があって助かった」と吉原さん。ただ、値段は1枚6500円(税抜き)と想定より高くなってしまった。それでもネット販売を始めて約1カ月で30枚が売れた。「素材と国産にこだわる考え方と、この形を気に入った方に使っていただければ」。妻は今では普通の生活に戻ったが、吉原さんの台所仕事は続いている。「世の男性諸氏にも、家の中のジェンダー平等、働き方改革に目覚めてほしいです」

 「割ッ烹レ(カッポレ)」と名付けたエプロンは青、白のほか生成りがあり、まもなく赤も販売開始だ。通販サイト「カッポレ倶楽部」(https://kappore.club/別ウインドウで開きます)などで販売している。

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