軽石漂着1カ月 重油も漁船も足止め続く与論島 新たな作戦も検討
小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火で発生した大量の軽石が鹿児島県与論島(与論町)に漂着して約1カ月となる。軽石の除去作業は進むが、島全体に電気を供給する発電所用の重油を運ぶタンカーが接岸できない状態は続き、漁師は出漁できないままだ。約5千人が暮らす島はなお不安に覆われている。
町によると軽石の漂着が始まったのは10月13日ごろ。周囲約23キロの島の南側を除く砂浜や周辺の海に押し寄せた。住民ボランティアや町の建設会社が重機などで取り除いてはいるが、大量の軽石が残っている。
島西部の茶花港にはほぼ毎月タンカーが接岸し、島全体に電力を供給する九州電力の内燃力発電施設にパイプラインを通して重油を補給してきた。
だが先月25日に接岸したタンカーは取水口に軽石が入りエンジンの冷却に支障が出たため、接岸後わずか30分で離岸しなくてはならず重油を補給できなかった。町の担当者は「重油が供給できなければ全島が停電になる可能性がある」と危機感を募らせた。
国交省は今月3日、タンカーの接岸を可能にするため、軽石を除去する海洋環境整備船「海煌(かいこう)」(全長35メートル、195トン)を熊本県八代市から与論島に向かわせた。
この船は八代海や有明海など「閉鎖性海域」でごみ回収を主な業務にしている。4日に屋久島に入港したものの、波が高いため5日に鹿児島県の指宿市まで引き返し、その後も港に足止めされたまま、与論島に到着するめどが立っていないという。
そこで同省は状況打開のため、茶花港の周辺に軽石が入らないようにする長さ約160メートルの汚濁防止用のフェンスを張ることを決めた。天候が回復次第、工事に着手する。担当者は「軽石の除去は経験がない。試行錯誤でいろいろと試すしかない」。関係者によると、15~17日をめどにタンカーを接岸させる準備を進めているという。
九州電力の担当者は「1カ月は重油の備蓄はある。発電ができなくなることはない」と強調。タンカーが接岸できない場合、重油を積んだタンクローリーを軽石の漂着が少ない島南西部の供利(ともり)港へ船に乗せて運ぶことも検討している。「人海戦術にはなるが、そういう方法も考えている」と担当者はいう。
与論町の担当者は「九電の説明で停電の不安は少しは和らいだが、一刻も早い重油の補給を期待したい」と話している。
一方、地元漁協によると、軽石が漁船の故障につながることを懸念して10月中旬からほとんどの漁師が出漁を見合わせたまま。11月から解禁になった販売の主力であるソデイカ漁も行われていない。
ただこのままでは漁師の収入がない状態が続くため、出漁する案も検討されているという。この場合、船が沖合で故障することを想定し、漁師がお互いを救助できるように2、3隻が1組になって一緒に漁をすることになるという。漁協の担当者は「1カ月近く、漁に出ることができていない。このままの状態を続けることはなかなか厳しくなってきた」と話している。