砂防ダムに小水力発電所 「村から脱炭素を」

坂田達郎
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 【山形】土砂を食い止めて人命や民家を守る砂防ダムに、小水力発電所としての役割を加える取り組みが山形県大蔵村で始まっている。川の水が流れ落ちる際のエネルギーを利用した発電で、年間の発電量は村のほぼ全世帯分をまかなえる規模だという。

 「おおくら升玉水力発電所」ができたのは、同村赤松の銅山川にある国管理の舛玉(ますだま)砂防堰堤(えんてい)(高さ15メートル、長さ117メートル)だ。発電所の建屋は深さ19メートルの地下構造物で、水車や発電機などがある。川の流れをいかし、水が約10メートル落ちてくるエネルギーで発電する。土砂を取り除いて水車の摩耗を防いだり、余分な水を川に戻したりする工夫も施されている。

 最大使用水量は毎秒6立方メートル。1時間あたりの最大出力は494キロワットで、年間発電量は3400メガワット時を見込む。一般家庭800~1千世帯分に相当し、村の全世帯数(約1千)に匹敵。発電された電気は固定価格買い取り制度(FIT)に基づき売電される。

 竣工(しゅんこう)式と運転開始式が9月28日にあり、設計・施工をした建設コンサルタント日本工営(東京)の担当者が、取水・導水の設備や仕組みについて説明した。

 「上流の砂防堰堤から、下流の発電所までは約50メートルでコンパクトなのが特徴」「砂防堰堤に幅3~4メートル、高さ1・8メートルの穴をあけ、取水口にした。既設の砂防堰堤に穴をあけた発電所としては国内最大級」とアピールした。

 2018年6月の着工で、豪雨災害新型コロナウイルスの影響もあって、予定より1年ほど遅れての完成だ。大蔵村のほか、日本工営のグループ会社「工営エナジー」(東京)、「もがみ自然エネルギー」(新庄市)が出資して設立した会社が運営する。県によると、貯水機能のない砂防堰堤に、自治体が小水力発電設備を設置した例は全国でも珍しいという。

 「子どもたちの再生可能エネルギーの学習の場として活用し、地球温暖化のリスクを次世代に残さないというメッセージを小さな大蔵村から発し続けたい」。運営会社長を務める加藤正美村長は竣工式で決意を示し、「村に住む人たちの電気料金を無料にするという私の夢の実現に向け、村におけるゼロカーボンをめざしていく」と語った。

 11年の東日本大震災後、県は再生可能エネルギーの導入に向け、中小水力発電に適した候補地を調査。日本工営は以前から小水力発電事業ができる場所を探しており、その一つとして県が候補地にあげた舛玉砂防堰堤を選んだ。

 県は17年度にも県管理の砂防堰堤で中小水力発電の候補地を調べ、33カ所を公表している。県エネルギー政策推進課の担当者は「33カ所のなかで着工した場所はまだないが、民間事業者が興味を示している場所もある。官民問わず、事業に参入するきっかけになってほしい」と話す。(坂田達郎)

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