第7回女性への暴力、元凶は… 「タリバンかどうかでない」根強い家父長制

有料記事アフガニスタンを思う

聞き手・大坪実佳子
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室蘭工業大大学院教授の清末愛砂さん 【連載】アフガニスタンを思う⑦

 アフガニスタンで権力を掌握したイスラム主義勢力タリバン。旧政権時代には、女性にブルカの着用を強要し、就学や就労を大幅に制限するなど女性差別的な施策を導入したことから、再び同じ状況になるのではと、懸念が広がっています。

 一方で、アフガニスタンの女性や子どもの状況の聞き取りを続けてきた室蘭工業大大学院の清末愛砂教授(49)は、「タリバンの女性への抑圧は、確かに強い。でも、タリバンだけが悪で、暴力の元凶なのか。歴史に着目して、多角的・批判的に検証する必要がある」と話します。

【連載初回】「退避は自分だけ」自衛隊機にただ一人 私がアフガンを飛び立つまで

イスラム主義勢力タリバンが政権を握り、混乱が続くアフガニスタンにゆかりのあるジャーナリストや有識者らに思いなどを取材する連載です。7回目では、アフガニスタンの女性の権利を取り上げます。女性の権利を制限したと批判されるタリバン以外にも、解決・検証すべき問題があるということを清末教授が指摘します。

 ――タリバンが暫定政権の樹立を宣言したことで、治安の悪化や人権の軽視が懸念されています。

 「日本では、アフガニスタンから国外退避しようと市民が空港に殺到しているニュースの印象が強く、現地は混乱していると思われがちですね。でも現地の友人からは、街中は表面上、落ち着いていると聞いています。タリバンがにらみをきかせているので、むしろ街中の犯罪率は、ぐっと下がったように見えると。予想通りです。以前もタリバンが政権を握った時は、彼らが非常に厳密に犯罪行為を取り締まるので治安が良くなった、として歓迎する市民もいたのですから」

 「日本のメディアの報道の仕方を見ていて、これはまずいと思うことがあります。旧タリバン政権では女性への締め付けが非常に厳しかったとはいえ、米軍の攻撃によってタリバン政権が崩壊した後は、女性や子供たちは暴力の被害に遭っていなかったでしょうか。旧タリバン政権以前は、どうだったでしょうか。そういったこともきちんと踏まえて議論する必要があります」

 ――歴史的には長い間、混乱が続いていますが、女性はどのような状況に置かれていたのでしょうか。

 「アフガニスタン国内では、1979年にソ連が侵攻したり、92年にムジャヒディン(イスラム戦士)が政権を打倒したりと、紛争が絶えませんでした。女性への服装の制限などはずっと続いてきましたし、92年以降の内戦では、ムジャヒディンによるレイプなどが多発しました。女性たちは大変恐怖を感じていました。こうしたことが96年のタリバン政権誕生につながりました」

 「01年の米国の攻撃でタリバン政権が崩壊し、国際社会が支援する新政権が誕生しましたが、その中枢は女性蔑視的な考えを持つ人たちが多数を占めており、この20年で抜本的に改善はしたとはいえません」

記事後半では、女性の権利を制限したり、抑圧したりする根本的な要因について、清末さんが解説します。

 ――では、アフガニスタンにおける女性への暴力は何に起因しているのでしょう。

 「暴力の要因は多岐にわたり…

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    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2021年9月20日14時19分 投稿
    【視点】

    アフガニスタンから児童婚はなぜなくならないのか。清末氏は、児童婚が貧困女性にとってのセーフティーネットとして機能してしまっている現状を変えていかなければならないと指摘する。長年現地で調査や交流を重ね、アフガン女性の視座からその社会を見つめて

    …続きを読む