島根原発2号機の新規制基準適合認める 原子力規制委
中国電力島根原発(松江市)2号機について、原子力規制委員会が15日、新規制基準に適合すると認める審査書を正式決定した。再稼働に向けた動きは地元自治体の同意に焦点が移るが、各首長からは安全性や避難対策について、丁寧な説明を求める声などがあがった。
◇
中国電は15日夕、原発30キロ圏内にある島根、鳥取両県と6市の首長に、リモートなどで審査に合格したことを報告した。
原発が立地する島根県の丸山達也知事は、中国電の清水希茂(まれしげ)社長に対し、再稼働について「県議会や関係自治体などの意見をよく聞いて、総合的に判断したい」と発言。その後の取材に、同意の前提として政府に原発の安全性や再稼働の必要性、住民の避難対策について十分な説明を求める方針を示し、判断の時期は未定と強調した。
同じく立地自治体の松江市の上定昭仁市長は「福島第一原発の事故で、市民の原発への不安感は大きく高まった。その意味で、新規制基準に適合したことは評価したい」としたうえで、同意については説明を受けてから判断するとし、時期は白紙だとした。
出雲市や安来市など島根県内の周辺自治体からも丁寧な説明を求める声が上がったほか、雲南市の石飛厚志市長は中国電に対し、「過去の不祥事や文書廃棄の問題を含め、今後信頼関係が築かれるような対応、取り組みを真にお願いしたい」とコメントした。
一方、鳥取県の自治体からは、中国電との安全協定で立地自治体にしかない「事前了解権」を求める意見が相次いだ。
平井伸治知事は記者団の取材に対し、「島根県の周辺自治体には(認めない)回答があったが、まだ我々には何らお答えがない。これが大前提となって互いの協議が進んでいくことになる」と、引き続き立地自治体並みの安全協定への改定を求める考えを強調。
伊木隆司・米子市長は「安全協定が改定されるかどうかは、再稼働に対する判断にかかわってくる」と述べた。
この日、島根県庁前広場では原発の再稼働に反対する市民団体の呼びかけによる集会もあり、約40人が参加。「再稼働やめてごせ」「原発事故が起きたら避難はムリ」などと記されたプラカードを掲げた。呼びかけ人の1人、岩本晃司さん(73)は「再稼働の阻止に向け、これからが正念場だ。原発の危険性をいっそう訴えていきたい」と話した。
◇
島根原発をめぐっては、重大事故があった際の広域避難計画が今月7日に国から了承され、「お墨付き」を得ている。しかし、避難対象者は山陰両県で計約45万7千人にのぼり、住民からは計画の実効性に不安の声もあがる。
松江市南部の忌部地区の自治協会長、福間弘倫(ひろみち)さん(64)は、島根原発での事故を想定する時、義兄のことをまず思い浮かべる。
2011年の東日本大震災の発生時、義兄は福島第二原発で工事関係者として働いていて、施設内でそのまま過ごさざるをえなかった。新潟県経由で、仙台にある勤務先の支社まで避難できたのはほぼ3日後。「未曽有の事態が起きた中に留め置かれて、どれだけ怖かっただろうか。原発事故は人ごととは思えない」
島根原発で重大事故があれば、約2千人いる地区の住民は、車で約3時間かかる広島県神石高原町への避難が決まっている。だが、国の「原子力災害対策指針」では、原発に近い5キロ圏の避難を優先させる一方、忌部地区のような5~30キロ圏の住民は混雑や屋外での被曝(ひばく)を防止するため、まず屋内退避し、その後1週間程度内に避難する「段階的避難」の考え方が示されている。
自家用車を持つ人は冷静に待てるのか。体が不自由な人は円滑に避難できるのか。避難車両で渋滞しないか。冬の雪は妨げにならないか。不安は尽きない。
今年7月の大雨の際、地区の公民館に災害対策の拠点を設けたが、防災無線などを通じて全戸に必要な情報を伝えるのにも苦労した。あの時も土砂災害への不安、先の見えない焦りにさいなまれた。
「でも、大雨は目に見える。放射能は目に見えない。待つように指示されても、風向きによってはすでに汚染されているかも、という不安感はぬぐえない。避難計画はあくまでも計画。完璧なものにはならないでしょうね」