1日3往復のローカル線、「乗り鉄」記者が再訪 意外な出会いも
1両だけのディーゼル列車が、緑濃い中国山地を縫い、青々とした稲がそよぐ田園を抜け、時には澄んだ川を渡りながらゆっくりと走る。JR芸備(げいび)線は、都会の鉄道のような「『長距離』を『大量』に『高速』で運ぶ」といったイメージにはほど遠い。大学時代、のどかなたたずまいに憧れて、地元・京都から乗りに出かけたのは忘れがたい思い出だ。その路線をめぐり、一部区間の廃止論がささやかれている。いても立ってもいられなくなった「乗り鉄」記者(30)が、11年ぶりに沿線をたどってみた。
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全国のJRの在来各線(一部路線を除く)の利用状況を調べるため、輸送密度(1日1キロあたりの平均利用者数)をもとに、国鉄分割民営化でJRが誕生した時点と2019年度を比較したところ、3分の2に当たる路線で減少していました。
国内屈指のローカル線?
「いまどうなっているのか気になるんです」。6月中旬、デスクと呼ばれる上司に現地取材を願い出た。新型コロナウイルス感染防止のため、取材相手とは向かい合わず、短時間で話を聞くことなどを条件に、許可が出た。
7月下旬の平日、岡山と山陰を結ぶJR伯備線の特急電車「やくも」で、スタート地点となる岡山県北部の新見(にいみ)駅(新見市)に降り立った。ホームの柱は古いレールが使われ、ノスタルジックだ。
ここでお目当ての芸備線に乗り換える。記者が勝手に「国内屈指のローカル線」だと思っている路線だ。路線の終点である広島駅の周辺では都会の通勤列車として多くの人が利用するが、新見市の隣の広島県庄原(しょうばら)市では列車が1日にわずか3往復しか走らない区間がある。こうした極めて乗りにくいところが、「国内屈指」たるゆえんである。JR西は6月、沿線でも利用が特に落ち込んでいる新見市と庄原市、そして岡山、広島の両県に対して課題を整理するための協議を申し入れ、8月には初会合が開かれた。9月には、各自治体が利用促進策を発表するという。記者は、この鉄路の行く末をかたずをのんで見守る一人、というわけだ。
困り顔の住民「車より楽」
時間があったので、駅前の「きくや食堂」に立ち寄った。「和洋食 備中そば」と書かれた古めかしいのれんをくぐる。のれんにあるくらいだから名物なのだろうか、備中そば(670円)を注文した。鶏肉に油揚げ、ニンジン、タマネギ、ネギと具だくさん。カツオ節などで取っただしは少し甘くて優しい味わいだ。店主の後藤晋一さん(66)に存廃議論について聞いてみると、「なかなか難しい。維持にもお金がかかる。バスになるんじゃないか……」と悩ましげだ。
平日の昼間、駅前の人通りはまばらだった。たまたま近くに新聞販売所「ASA新見」があったので、店主の福田龍男さん(57)にも話を振ってみた。幼い頃、蒸気機関車が走っていた時代から芸備線を愛用してきたという。今も実家のある市内の野馳(のち)駅と新見駅の間を利用している。新見方面の最終列車は貸し切り状態になることが多いが、朝夕は高校生らが使っているという。「なくなるとほんとに困る。車より楽だし、酒を飲んでも乗れる。自治体も観光客を増やすなど、利用促進をしないと」と力を込めて話してくれた。
定刻に出発したワンマン列車は、ゆっくりと中国山地に分け入ります。たどりついた「秘境のターミナル」には、鉄路と自らの命、「どれが先にあの世に逝くか」と語る住民がいました。普通列車に4時間半揺られ、見たもの、聞いたこと、感じた思いをつづります。
1両の列車に乗客は50人も
駅に戻ると、午後1時2分発…