若年女性のシェアハウス、大阪府営住宅にオープン 自立を支援

中塚久美子
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 家族の暴力や貧困など様々な事情で安住できる家がない10~20代女性を対象に、大阪府営住宅を使った初のシェアハウスが1日、茨木市内に開設された。市と地域住民、不動産業者の連携で実現した。女性の自立を支援し、公営住宅の空室対策も兼ねる取り組みで、関係者は他の自治体への広がりを期待する。

 シェアハウスは3LDK(約70平方メートル)で、3人での共用を想定。4・5~6畳の3部屋を個室として使い、16畳のLDKや風呂、トイレを共用する。家賃は光熱水費やネット通信料など込みで1人月2万5千円。ベッドや家電は備え付けられ、敷金・礼金、保証人が不要で即入居が可能だ。

 茨木市に住む社会福祉士の辻由起子さん(47)は、シェアハウスの開設を主導した一人。住む家がない10~20代の女性を支援してきたが、自立を妨げる大きな要因の一つが「住所」がないことだった。役所の手続きや就職活動など自立への一歩を踏み出すことが難しくなる。

 住む家がなく、友人や男性宅を転々とするうちに妊娠したりトラブルに巻き込まれたりして困窮した女性は、貯金がなく保証人もいないため、賃貸住宅を借りられず住所をつくれないことが多い。辻さんは「身分証がない子は生きていけない」と困難を訴えてきた。

 辻さんの訴えで動いたのが、兵庫県尼崎市に本社を置く不動産業者「アドミリ」の菊竹貴史社長(44)だ。2008年からシェアハウス事業を始め、一般向けのほか、シングルマザーや外国人、被災者らのシェアハウスも展開。現在、大阪と兵庫で約300室を運営する。

 2人が専門家を交えて協議してたどり着いたのが、府営住宅の「目的外使用」だった。

 府営住宅は原則、高齢や障害などの理由を除き単身者は入居できない。目的外使用は、空室活用のため住居以外にも使えるよう国が承認する制度だ。府内では、障害者のグループホーム介護を学ぶ外国人技能実習生らの寮、子ども食堂などに約600戸が使われている。シェアハウスは、茨木市の後押しを得てこの枠組みを利用した。

 アドミリが、年約60万円の使用料を払って府営住宅を借り受け、居住者に貸して家賃を受け取る。居住者は、家賃負担を抑えて家を確保し、支援者や市の手助けを得ながら自立をめざすことができる。

 辻さんは「若い女性が自立しようとしても行政の支援の選択肢は少なく、施設に入るか生活保護を受けるしかなかった。入居しやすく安心して暮らせる場ができたのは大きな一歩」と喜ぶ。入居の相談は「アドミリ」のウェブサイトや市の窓口で受け付ける。

 初期費用を含めて持ち出しもある菊竹さんも「支援者や行政と連携して展開できる安心感は事業者にもメリット」という。府営住宅は約12万戸あり、空室は約1割の1万2千戸ほどにのぼる。「もてあますのはもったいない。空室の有効活用にもなる」と話した。

 困窮する女性の住まいの問題に詳しい追手門学院大の葛西リサ准教授は「家というハコだけではなく、地域で一緒に自立を考えてくれる人がいる点が画期的だ」と評価する。困難を抱える人は、住まいだけでは精神的に立ち上がれないことが多いという。「ニーズは全国にある。貧困ビジネスに利用されないよう行政がしっかり計画し、ノウハウがある事業者や支援者と相互協力していけば、広がりが出る」と期待する。中塚久美子

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