盲ろうのランナーが聖火をつないだ10分間 葛藤と願い

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佐藤啓介
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 新型コロナの感染拡大が収まらない中、開幕した東京パラリンピック。それに先駆けて行われた聖火の点火セレモニー(東京会場)にある盲ろうの女性が参加し、大きな挑戦に臨んだ。「穏やかな日常が戻り、盲ろう者が社会参加できる時代が来るように」。葛藤を抱きながら、およそ10分間、静寂の中で自らに託された聖火に思いを込めた。

 聖火リレーは公道走行ではなく、トーチキスの方式に変わり、開幕前日の8月23日は世田谷区の砧(きぬた)公園の広場で開催された。各自治体から選ばれたランナーたちが50メートルほどの距離を隔てて向かい合う。自分のトーチに火を受け継ぐと、関係者に見守られながらゆっくり道を進み、次のランナーのトーチへとつなぐ。そうやって聖火は広場内を何度も往復した。

 神奈川県平塚市の高橋和代さん(56)の出番は午後3時前にやってきた。目と耳の両方が不自由な盲ろう者だが、「一人」で歩いて聖火をつなぐことに挑んだ。

 盲ろう者が移動をする時は通常白杖(はくじょう)を持ち、介助者が横について歩く。他者とのコミュニケーションは、相手の両手に自分の手を乗せて指同士を触れあわせる「指点字」などの方法で行っている。

 高橋さんが一人で歩くことを可能にしたのは、この「指点字」の仕組みを応用したウェアラブル端末だ。手の指先に装着した電子機器を通じて、振動によって文字情報を送りあう。介助者と遠隔でコミュニケーションをとることができる。

 聖火リレー当日。この道具を開発した一般社団法人ハートウエアラボ(東京)の米山爾(ちかし)さんが見守る中、高橋さんはトーチを大切に掲げ、歩き始めた。

 芝生と聞いていた会場の道は…

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