戦争語るモノの意義 「この世界の片隅に」片渕須直監督

有料記事知る戦争

武田啓亮
[PR]

 終戦から76年。戦争経験者の証言だけでなく、戦時中の「モノ」もまた、戦争の時代を後世に残していく大切な役割を担っている。緻密な取材に基づく時代考証で知られる映画この世界の片隅に」の片渕須直監督(61)に、戦争を語る「モノ」たちの意義を聞いた。

 ――映画「この世界の片隅に」の制作では、戦争経験者の証言だけでなく、当時の品物なども参考にしたと聞きました。

 人の証言は揺らぐことがある。当時の品物は、それを検証したり補強したりして客観性を担保する材料になる。例えば、零戦のパイロットたちに「乗っていた機体は何色でしたか?」と聞くとみんな答えが違う。初期の機体はグレーだったとされていますが、グレーはグレーでも、「オリーブに近い」とか「あめ色だった」と、まちまち。しかも、同じ人に繰り返し聞いても毎回答えが違う。

 そこで、実際の機体の一部を科学的に分析してもらい、当時の資料と照らし合わせた。すると、この塗料は変質して色が変わることが分かった。元は同じ色でも、目にした機体や、その人が思い浮かべた場面ごとに色は違っていた。まちまちの記憶も正しかった。

 ――(映画の主人公の)すずさんを通して描かれる市民の生活の描写も評判になりました。

 戦時中の女性たちの暮らしを描くにあたり、おしろいの入れ物をたくさん集めたんです。最初は金属の缶だったのが、戦況が悪化するにつれて紙になり、それもだんだん使われる色が減っていく。暮らしへの影響が見て取れると同時に、こんな状況になってもおしゃれは欠かさなかったんだなあと。1944年に公開された黒澤明監督の「一番美しく」という映画も見ましたが、工場で働く女性たちが、金属供出があった時期でも、きちんとヘアピンをしているんですよ。

 徳島県の若い主婦が書いた日…

この記事は有料記事です。残り1565文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

知る戦争

知る戦争

平和への思いを若い世代へ託そうと、発信を続ける人がいます。原爆や戦争をテーマにした記事を集めた特集ページです。[もっと見る]