第5波、死者が少ないと見るのは早計 前橋日赤の林医師

聞き手・星井麻紀
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 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、群馬県内が緊急事態宣言の対象地域となった。「第5波」で医療現場はどうなっているのか。前橋赤十字病院(前橋市朝倉町)で治療の最前線にいる林俊誠(としまさ)・感染症内科副部長に書面で聞いた。

――「第5波」はこれまでとは違うと感じます。

 最も大きな違いは、陽性者の年齢層が低くなったことと、若い世代での重症化が目立つことです。これまで重症化する人は高齢者が多かったのに比べ、第5波では、30~40歳代でも人工呼吸管理を必要とする人も珍しくありません。基礎疾患のない若年者でも、強い症状を訴えたり、酸素吸入が必要となったりするケースが多い印象です。

 感染拡大について医療現場とそれ以外の現場が感じる恐怖感の差も、これまでの波に比べて大きいと感じています。

――以前より死者数は減ったように思います。

 死亡者が少ない理由は三つあると考えます。

 まず、県内の65歳以上の高齢者の約86%がワクチンを2回接種できたことで、致死率の高い年齢層の重症化が一定程度減った影響が最も大きいです。二つ目は治療薬の選択や量、使用するタイミングについて知見が集積されてきたことです。

 さらに、重症化リスク因子があっても、抗体カクテル療法で重症化を防げた例を複数経験しています。

 ただし、陽性者数、重症患者、死者の増加の間には週単位のタイムラグがあります。ですので、第5波の死者が少ないと決めるのは早計です。

――コロナ以外の医療への影響はありませんか。

 例えば集中治療室や救命センター病棟の半分を新型コロナウイルス対応に充てたことで、一部手術が延期されたり、重症患者の需要に応えるのが難しくなったりといった影響が出ています。

 当院では、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO〈エクモ〉)を必要とする重症の新型コロナウイルス感染者については集中治療科・救急科が主に対応しています。そのため、両科が従来対応してきた外傷や中毒、重度熱中症などは、これまでどおりの対応が難しくなる可能性もあります。

 その他の診療科や他職種も、ワクチン接種業務に携わるなどしており、人員は不足し疲弊しています。

 そのような状況下で、もしも当院がこれ以上新型コロナウイルス対応病床を増やすならば、一般診療がほぼ行えなくなるほどに業務を制限しなければならない危機的な状況に陥ると予測します。

――いま現場で感じる最大の課題は何でしょうか。

 新型コロナウイルス対応にあたる医療従事者の偏りです。陽性者が増加する一方で、医療従事者がいまだに一部の医療機関に限られています。

 重症患者や精神疾患、維持透析、妊婦、小児といった背景のある患者に対応できる医療機関が、今のまま少ないようでは、いくら感染症法上の分類を2類相当から5類相当に変更しても、結局は医療提供体制として、何も変わらないのではないでしょうか。(聞き手・星井麻紀)

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