大阪 がん患者支える家族の日常に密着、映画無料公開

細見卓司
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 がん患者の家族の日常に迫った自主制作の短編映画が14日からユーチューブで無料公開されている。つくったのは、がんに侵された父を看病し、心の痛みを経験した女性だ。女性は「身近な人が突然、がんと診断されてもおかしくない。患者を支える家族の姿をみて、理解や共感が少しでも広がれば」と話す。

 国立がん研究センターが運営するウェブサイト「がん情報サービス」によると、2018年に新たに診断されたがんは約98万例で、19年にがんで亡くなった人は約37万人だった。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65%、女性50・2%にのぼる。患者を支える家族は不安とストレスを抱え、心のケアが必要な「第二の患者」とも言われる。

 がん患者の家族を支援する一般社団法人「Mon ami」(大阪府八尾市)の代表理事の酒井たえこさん(50)も、約17年前に父の芳正(ほうせい)さんをがんで亡くした。64歳だった。深い喪失感に襲われ、布団から出られない日々を過ごした。周囲の人に気持ちを打ち明ける場もなかった。この経験が、がん患者の家族をサポートするきっかけになった。

 酒井さんによると、昨年から続くコロナ禍で、病院でがん患者と面会禁止になるなど、会いたいのに会えない苦しみを抱いている家族もいるという。そんな状況を少しでも和らげたいとの思いで、短編映画をつくることを決めた。

 制作費などに充てるため、クラウドファンディングで70万円を目標に募ったところ、74万円が集まった。がんで身内をなくした家族からの支援もあったという。昨年12月にクランクインし、今年5月ごろまで2組の家族に密着し、スマートフォンで撮影した。

 大事にしたのは、ドラマチックな場面を切り取るのではなく、家族の日常に「同行取材」するような感覚だ。患者と家族が普段、どんな会話を交わし、食事は何を食べているのか。どんな看病生活を送っているのか――。

 酒井さんは「他のがん患者や家族の暮らしぶりが分かれば、『普通に笑っていいんだ』『そんなに頑張らなくてもいいんだ』と、まさに今、看病している家族の安心にもつながるはず」と力を込める。

 題名は短編映画「がん家族。」。男性編と女性編があり各約20分。ユーチューブでの公開は18日まで、動画専用サイトで19日から23日まで公開する。今後はスクリーンでの上映会も検討している。詳細はホームページ(https://eigagankazoku.jimdofree.com/別ウインドウで開きます)。(細見卓司)

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