中等症、医師「人生で一番苦しい」 一般認識とギャップ
軽症は「かぜ」、中等症は「息苦しさは出そう」、重症なら「入院は必要だろう」。新型コロナウイルス感染症の症状に、こんなイメージを抱いていないだろうか。だが、実際にはこんなに甘くない。それを端的に描いた一枚のスライドが反響を呼んでいる。スライドをつくった米ジョージタウン大学内科助教の安川康介さんに作成の意図を聞いた。
――このスライドをなぜつくろうと思ったのですか。
重症者や死者の人数は毎日のように報道されますが、中等症は、数字として見えづらい。でも、30~40代の感染者ではそれなりの割合になり、病状もつらい。私も肺炎になって苦しんでいる30~40代の患者さんをたくさん診てきました。
このあたりが、一般の人に正確に理解されていないのではないかと思いました。
新型コロナワクチンの正確な情報を届ける「こびナビ(CoV-Navi)」という団体で、幹事をしています。そこで、「日本では重症者が少ないから、ワクチンはいらないんじゃないか」というコメントをいただきます。
東京都の重症者は4日時点で115人と報道されています。人口規模から考えたら、確かに、たいしたことはなさそうですよね。
でも、東京都の重症者の基準は、米国では重症より重い「重篤(クリティカル)」にあてはまります。
米国の重症に近いのは、日本でいう「中等症2」です。「ワクチンの重症化を防ぐ効果」という際の「重症」も、日本の「中等症2」と「重症」を含めたものに近い定義です。
中等症2は、血中の酸素飽和度が93%以下になり、酸素投与が必要です。それより軽い「中等症1」は、酸素飽和度が96%未満で、肺炎があり、つらい状態です。健康な人の酸素飽和度はだいたい96%以上です。
――7月20日にツイートし、10日間で1400万超の人が目にしました。
みなさんが知っていることなら、これだけの反響はないと思います。
ただ、反響があったこと自体に問題意識を持ちました。新型コロナと1年半以上つきあってきて、医者にとって当たり前のことが、伝わっていなかったわけですから。
――想定外でしたか。
スライドは数十分ほどでつくりましたが、こんなに反響があるとは思いませんでした。
苦しさがなくても要注意
――医者がイメージする中等症は「人工呼吸器はいらない・肺炎は広がっている・多くの人にとって人生で一番苦しい」と書いています。
新型コロナでは、せき、発熱だけでなく、嘔吐(おうと)や下痢などの消化器症状、味覚障害、嗅覚(きゅうかく)障害など、色々な症状があります。しかも、インフルエンザなどと比べ、長く続くことが多い。
症状が苦しい、重いというだけでなく、それが続くということがあるので、そう書きました。
ただ、問題があります。
血中の酸素飽和度が下がっているのに苦しさを感じない「サイレント・ハイポキシア(サイレント低酸素血症)」の人もいます。苦しくはなくても、放っておけば、亡くなってしまいます。
症状ばかりに焦点が当たると、このことが抜け落ちてしまい、伝え方は難しいと感じています。
サイレント・ハイポキシアは、パルスオキシメーターで、酸素飽和度を測らないとわかりません。酸素飽和度が下がっていたことに気付かず、亡くなった人もいると思います。
基本的に酸素飽和度は90%以上ないと、重要な臓器に酸素が十分届きません。90%以下が続けば、亡くなってしまう危険があります。
さらに、新型コロナは、症状の進みが速いことがあり、いつどうなるかわからない不安がある厄介な病気です。いま中等症でも、次の日には、肺炎が進んで重症になっていることがあります。
中等症2 40~50代で1割
――感染した人のうちのどのくらいが、中等症になるのでしょうか。
全国データはないようですが、大分県では、中等症2以上になった30代は25人に1人、40代、50代では10人に1人です。
高知県でも、30代で中等症4%、40代で中等症11%、重症1%という、だいたい同じようなデータがでています。
――和歌山県のデータをみると、春に変異株(アルファ株)に感染し、肺炎になった人は20代で28%、30代で47%でした。かなり高いと感じました。
新型コロナは、すごく肺炎を起こしやすい。ある程度、息苦しさがある人では、CTを撮れば、だいたい肺炎があると思います。
もちろん、肺炎になっても…
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