「誰も住んでないんでしょ」に絶句 欧州で続ける原爆劇
「広島には人が住んでないんでしょ?」。ドイツで演劇仲間にこう言われ、被爆地の現実を伝えようと試行錯誤する日本人俳優がいる。被爆者の人生をモチーフに一人芝居を始めて10年。原爆をめぐる認識の溝は少しずつ埋まっている、と感じている。
「私はなぜ広島に生まれたの? なぜ生き延びてしまったの?」。スイス・チューリヒの劇場。お下げ髪にもんぺ姿の15歳の少女がひとり、約200人の観客が見つめるステージ上で泣き叫んでいた。
76年前、8月6日の広島。午前8時15分に舞台が暗転し、少女の焼けただれた顔が暗闇に浮かび上がる。震える両手を伸ばし、水を求めてさまよい歩く。電車や学校で指をさされ、はやし立てられた少女は鬼に化ける。轟音(ごうおん)が響き、川の中でうごめく遺体の絵がスクリーンに映し出される中、少女は原爆への怒りをぶちまける。
演じるのは原サチコさん(56)。自らドイツ語で脚本を書いた。神奈川県出身で、大学1年のころから東京・新宿の劇団で活動。尊敬する演出家のもとで演技をしたいと35歳で渡独し、ベルリンの劇場の専属俳優として活躍してきた。
転機は原爆投下から64年経った2009年。広島市の姉妹都市ハノーバー市の劇場に移籍した。第2次世界大戦の空襲で街の6割が破壊された街。そこで暮らす同年代の仲間らはこう言った。「広島は焼け野原のままなんでしょ?」「誰も住んでないんでしょ?」
言葉を失った。ヒロシマの地名は覚えていても、何が起き、その後どうなったのかを知る人は少ない。原発事故が起きた旧ソ連のチェルノブイリと混同している人もいた。「原爆がなかったことになる」。何かを語れるほど被爆地を知らない「負い目」にもせき立てられ、広島を訪れた。10年7月のことだ。
「私ら被爆者はいつか死ぬ…