人口減日本の停滞、藻谷浩介さんから見た悪手と次の一手

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聞き手 編集委員・原真人

 日本経済の停滞の真因は、それまで指摘されていたような円高不況や産業競争力の衰退ではなく、まして財政出動や金融緩和が足りないのでもない、最大の要因は生産年齢人口の減少である。藻谷浩介さんは著書「デフレの正体」でそう喝破した。あれから10年余。その診断は生かされたか。人口減少国家の現在と未来は。

 ――経済を動かすのは景気の波でなく人口の波だという藻谷さんの発見は今では賛同者も多いですが、2010年の著書発表時には多くの批判があったそうですね。

 「商業統計を調べていて生産年齢人口の減少と消費停滞の連動に気づきました。でも経済学者らは『人口とデフレは無関係』『人口減で供給力が落ちるならむしろインフレ要因』などと反論してきました。真の病因が特定できないと誤った治療法に迷い込む。そう考えて提言したのに、古いセオリーを丸暗記していると眼前の現実が見えなくなるのでしょうか」

 ――同年、日本は中国に国内総生産(GDP)で抜かれ、半世紀近く続いた世界2位の経済大国の座を失いました。人口減と経済大国からの転落。二つのショックがその後、日本全体に悲観的な空気を広げていったように見えます。

 「世の中に何となく漂っていた不安の正体を突き止め、指し示すのが狙いでしたが、結果的にショックを助長することになったのかもしれません。でも私は過度な悲観は無用、打つ手はあるとも訴えてきました。たとえば若者の賃上げ、女性就労、外国人観光客の誘致などの内需底上げ策です」

アベノミクスで株価は上がったが消費を増やせなかった

 ――その後もすぐには人口減少問題は政策の焦点にはならず、安倍政権はむしろ「デフレの原因は金融緩和が足りないからだ」という方に焦点をあて、日本銀行にインフレ目標を掲げさせて異次元金融緩和をやらせました。

 「人口原因説に最も強く異論を唱えてきたのがアベノミクスを支持するリフレ論者たちでした。金融緩和で物価や株価を上げれば消費も増える、という彼らの空論を信じ込んだ前首相は異次元緩和を鳴り物入りで行いました。その結果、株価は急騰しましたが、肝心の消費は私の本で予言した通り、ほとんど増えませんでした」

 ――人為的にインフレを起こすという処方箋(せん)は見当ちがいだと?

 「バブル後の20年間の金融緩和でお金の量が3倍になっても効果がなかったことでそれは明らかでした。本の発刊後、小野善康・大阪大特任教授のいわば『預金フェチ(偏愛)』説を知って理解が深まりました。現役世代は所得を消費に回しますが、高齢富裕層は欲しいものがなく消費より貯金が快感になってしまっている。こうした預金フェチの人にため込まれてしまうので、金融緩和や財政刺激をしても需要は伸びないのです」

 ――コロナ下でも供給ショックの方は起きませんでした。

 「経済学の祖アダム・スミスの生きた18世紀なら、感染拡大下で働き手が足りなくなり、供給力が落ちたかもしれません。でも今はこんな事態になっても物不足にはならない。ロボットなどの進化によって生産力は補完されました。太陽光エネルギーのような技術革新もあって資源制約も受けにくくなった。人類は巨大な供給力を手に入れたのです。一方で消費が盛んな生産年齢人口が減っているうえ、お年寄りはお金を使わないから、消費数量は減ってしまう」

時間あたり「生産性」ではなく、時間あたり「消費」を増やす

 ――問題は生産力ではなく、需要をどう増やすか、ですか。

 「需要なき生産は値崩れを起こすだけ。生産に重きを置く経済学の枠組みは時代遅れです。人口成熟下の成長の条件は現役世代の所得が増え、人口当たり・時間当たりの消費額が増えることです」

 ――消費が増えない背景には、将来の増税を懸念させる政府の財政悪化の影響もありませんか。

 「政府が返済計画の立たない借金を積み重ねる姿には、社会の病理を感じます。財政規模は肥大化してきましたが、内需はほとんど増えていません。さらなる財政拡大を提唱している最近はやりのMMT(現代貨幣理論)論者もその事実を見ていません」

 ――このまま財政を維持していけるとはとても思えません。

 「日本の経常収支黒字はコロナ禍の昨年も世界3位。これが続いて財政赤字を国内資金で賄えるうちはいいが、戦争や天災など何らかの理由で金利が急騰したら巨大な借金を抱えた政府機能は即刻止まります。そうでなくとも南海トラフ地震は近未来の発生が想定されていますし、豪雨災害も続くでしょう。いざ本当に財源が必要な時のための備えが必要です」

「できることをやるしかない」。藻谷浩介さんの唱える処方箋は。中国経済の動向、日本のとるべき観光戦略についても言及します。

 ――いま備えるべきことは?

 「やれることはたくさんあり…

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