都立高校、男女定員は必要か 廃止求める声と現場の事情

阿部朋美 山下知子 聞き手・三島あずさ
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 東京都立高校は、募集定員が男女別に設定されています。70年以上にわたって続く制度で、性別によって入試の合格ラインが異なるため、問題視する声があがっています。2018年には大学の医学部入試で、女性や浪人生が差別を受ける不正も明らかになりました。中学の学校現場の声や法律の専門家の話から、入試にまつわるジェンダーの問題について考えました。

公立高では都立入試だけ 本社アンケート

 都立高校の男女別定員は、全国でみると異例の制度だ。朝日新聞が今年6月、47都道府県にアンケートしたところ、都道府県立高校で定員を男女別にしているのは東京都だけだった。過去に男女別にしていた7府県は「男女の比率にあらかじめ一定の範囲を定めることは合格ラインが異なることになり、男女平等の理念にそぐわない」(兵庫県)などとして、いずれも廃止。一部の学校で残っていた群馬県でも昨年春の入試を最後に廃止した。

 アンケートでは、男女の生徒数が同程度であるメリットも聞き、「音楽の混声合唱や体育、部活動での団体活動が実施しやすい」「トイレや更衣室などの設備の心配がない」といった回答があった。一方、「入学時に男女の数字に差が生じることがあるが、課題は生じていない」と答えた自治体もあった。

 都立高校の男女別定員制度は1950年度に導入された。現在は普通科110校で定員が男女別になっている。一方、定員の9割までを男女別の成績順で決め、残り1割を男女合同の成績順で決める「緩和措置」も98年度から導入。今春の入試では42校がこの措置をとった。

 男女別定員制度については、これまでも撤廃を求める声が上がっていた。男女別定員を話し合う東京都の検討委員会は90年に撤廃を提言。「小中学校での『男女平等』が高校で一転し、全日制普通科のみ男女を区別して選抜するのは疑問」とした。また、外部の有識者や学校の関係者でつくる都の入試検討委員会も見直すよう指摘している。

 制度が続いているのはなぜか。都教育委員会は「急激に変えると中学の進路指導などが混乱する。影響が大きいので慎重に検討する必要がある。緩和措置を導入するなど、議論は進めている」としている。

 私立高校との関係も影響している。都教委と私立高校は、全体の定員が都立約6割、私立約4割になるよう調整。朝日新聞のアンケートでは、東京都以外の17県も私立高との定員調整をしていると回答した。

 東京都以外の道府県では、性別に基づく定員の調整はいずれも「ない」と答えた。一方、男子生徒の比率が高い東日本の公立難関高で昨年まで副校長だった教員は「数学と理科が難しいと(結果として)女子の合格者が減る」と打ち明ける。理系の難関大学への進学実績は保護者の関心事でもあったといい、「理数系に苦手意識を抱きがちな女子より、男子が増えるほうが、喜ばしい。女子のほうが元気なので、女子がちょっと少ないほうが学校としてはバランスがいいと感じていた」という。(阿部朋美、山下知子)

中学と高校 校長の認識に差

 男女別定員制について、都の「都立高等学校入学者選抜検討委員会」が中学校と高校の校長にアンケートをしたところ、認識の違いが浮き彫りになった。

 検討委の昨夏の報告書によると、「男女別定員制は必要か」との問いに、「必要」または「どちらかと言えば必要」と答えたのは、都立高の校長では82・7%だったのに対し、公立中の校長では58・0%だった。

 高校長からは「男女合同定員制にすると女子の合格者が多くなる傾向があり、男子が入学できる余地を残しておくためにも、男女別定員制は意味がある」「年度によって男女比が異なること、施設、設備の過不足などが生じることへの理解が課題」などの意見があり、中学校長からは「心と体の性が同一ではない生徒もいる。単純に二つの性別で分けることは不適切」などの声が上がったという。

 検討委は、男女別定員制の緩和措置を引き続き実施すると共に、それだけでは男女の合格最低点の差を完全に是正できないとして、「男女合同定員制について本格的に議論を進める必要がある」としている。

「合格ラインは一つに」 全日本中学校長会・宮澤一則会長

 都立高校の男女別定員制を中学側はどう見ているのか。全日本中学校長会の宮澤一則会長(東京都板橋区立中台中学校校長)に聞きました。

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 都立高では2003年に学区制がなくなり、どの都立高校でも受験できるようになりました。女子の受験生が多く集まる学校もあるので、「生徒の男女比があまり偏ると、施設面などに支障が生じる」といった高校側の事情も分からないではありません。しかし、「男女での区別はなくしていこう」という時代の流れのなか、なぜ男女別定員制を続けているのか疑問があります。

 「東京都内の私立は女子校に比べて男子校が少ないから、都立では男女別定員制で男子の受け皿を確保する必要がある」との指摘もあります。しかし、私立高校の共学化が進んでいますし、都立高校でも2次募集などで十分対応できるはずです。

 中学校では、男女での区別はどんどんなくしていっています。私が校長を務める学校では、今年度から保健体育の授業も男女で分けずにしています。また、標準服は「男子用」「女子用」ではなく、「スラックスタイプ」「スカートタイプ」と呼び、性別にかかわらず選べるようにしています。内申点をつける際も男女での区別は当然していません。

 「男だから」「女だから」ではなく、本当に行きたい高校を目指してほしいと願っています。つまり、入試でも、同じ中学生として同じ土俵で判定してほしいということです。

 内申点の影響があるかもしれませんが、もし、合格した男子より高得点だったのに不合格にされた女子生徒から「なぜ」と問われたら――。「あなたが女子だからだよ」だなんて言えません。合格ラインは一つであるべきです。

 進路説明会では、男女別定員があり、倍率も男女で異なることは伝えています。ただ、「そういうものだ」と思っている保護者や生徒が多いのか、疑問の声はあがりません。同じ高校を受ける生徒は、学年で数人程度。各自に得点の開示請求をしてもらい、データを集めていますが、サンプル数が少ないため「同じ得点なのに男子は合格し、女子は不合格だった」といったことが顕在化せず、中学校側も、「男女別定員制の影響」を実感しづらいというのが現状です。

 都立高校でも、他の自治体と同じように男女の枠をなくし、公平性を高めてほしいと思います。日ごろ生徒たちに言っている「努力は報われる」という言葉が幻になりかねない現行制度は、改めていくべきだと考えます。数年間は多少の混乱があるかもしれませんが、「成績順に合否を決める」という当たり前のことには、大半の人が納得するはずです。(聞き手・三島あずさ)

「違憲、医学部入試と根は同じ」 ジェンダー平等を求める弁護士の会

 都立高校入試の男女別定員制は、憲法教育基本法に違反する許されない性差別だ――。「都立高校入試のジェンダー平等を求める弁護士の会」が6月末、制度の廃止と、合否判定における男女格差の是正を求める意見書を公表した。

 同会のメンバーは2018年に発覚した複数の大学医学部入試での女性差別問題で、訴訟などに関わってきた。意見書では、男女別定員制について「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障する憲法26条1項に反すると指摘。性別などによる教育上の差別を禁じた教育基本法4条1項にも反すると訴えている。

 また、日本も批准している女子差別撤廃条約は男女に「同一の試験」を保障することを締約国に求めているとしたうえで、都の男女別定員は、本来は受験生個人に保障されている「自ら選んだ学校の入試で公正に評価される権利」の侵害にあたると指摘している。

 都立高入試は、男女別の定員を明示している点では医学部入試問題と異なるが、同会メンバーの山崎新弁護士(48)は「男女の合格最低点の差を明示せず、正確な情報を隠してきたという点で、東京都は入試の公正性についての説明義務を果たしているとは言えない。性別のみに着目した入試を長年行ってきたという意味で、医学部入試問題と根は同じ」と指摘する。

 私立校でも男女別定員があり、男女で倍率が異なる学校はあるが、山崎弁護士は「公立校は、憲法に適合し、男女の機会平等を担保しなければならないため、例えば『男女の人数は半々が良い』などの目的で現状のような男女格差を正当化することができない」と訴える。自身も都立高出身といい、「塾が出す偏差値分布では、当時から明らかに男女で差がある高校もあった。にもかかわらず制度が長年維持されてきたのは、多くの場合、不利益を受けるのが女子だったからだ」と指摘する。

 「根底には性差別への感度の鈍さがある。公正に評価され、能力に応じた教育を受ける個人の権利をないがしろにしてまで、『私立校との定員調整』といったシステムを維持する合理性はない」(三島あずさ)

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 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●成績順で合否判断を

 私は来年受験を控えています。性別で合否を分けられたら、今の努力が無駄だと感じてしまいます。男女平等は大切ですが、学習面は男女ではなくて純粋に成績順で合否を分けてほしいです。学力は性別ではなく、個人の性格と育った環境だと思います。(埼玉県 10代女性)

 ●「そういうもの」多い学校現場

 公立中学校で都立入試に向けて進路指導をしていて、大変違和感をもっていました。ただ、そのことに対して管理職の教員も保護者も疑問はなさそうでしたので、私立学校に通っていた自分は、「公立はそういうもの」としていました。学校現場は、今の時代や感覚にそぐわない暗黙の了解やルールが多くあり、それらは長い間そのままにされ議論されることもなく、そういうもの、変えられないもの、と誰もが思い込んだり、声をあげることすらも諦めたりしていると感じています。最近、制服や校則、入試制度等の問題点が世間でも取り上げられているのは、やっと議論できるようになった大事な変化だと考えています。(東京都 30代女性)

 ●その後の人生にも影響

 共学と言っても大学は成績順で合否が決まるし、高校でも理系文系でクラスが分かれれば男女比が極端に異なるクラスもたくさんある。男女比を半々にしたいがために有能な子が不合格になり、希望する教育を受けられないのはおかしいと思う。その後の人生にも影響してしまうのでは。(東京都 30代女性)

 ●夢の実現に制限をかける行為

 私は男女それぞれの性別で分けて入試を行うことに対して反対である。学校(特に高校や大学)は、個人の夢や目標を実現できるよう力を付けたり、夢や目標を実現するための学校に入るための学力等を養ったりする場所であると考える。全ての男女別の入試に当てはまるわけではないが、入学を希望する男女の数がどちらかが明らかに多いにもかかわらず、定員数は男女で同じという学校もある。男女で定員を設けることは、どちらかの性別の夢や目標の実現に制限をかけてしまうことにつながるのではないかと考える。(鹿児島県 10代女性)

 ●平等の定員で互いの良さ認識

 男女別の定員を設けることで、それぞれのジェンダーがバランスよく配置され、学校生活が円滑にいく。女子が多すぎる、男子が多すぎるとなると、それはそれで少ない方のジェンダーの子の能力が発揮されない。平等の定員にすることで、それぞれの良さを認識できると思う。また高校入試などは女子のほうがどうしても内申が良いので点数が高くなる。男子は幼いので、大学受験期まで才能が開花しない人もいる。(東京都 40代女性)

 ●ステレオタイプ、目の当たりに

 数年前に大学受験をしました。知人の女性が国立の大学に不合格になり、その母親が「女の子だし私立で十分だ」と慰めるように言ったのを見て衝撃を受けました。また先日、中学生の女の子の親から勉強について相談を受けていたところ「女の子だから数学は苦手で」と言われました。噂(うわさ)には聞いていたものの、本当にこれを言う人がいるんだ、と驚きました。どちらも言った当人に悪気のない慰めや擁護ですが、そのような言葉で子供の首を絞めている側面があるように思います。適当に作られたステレオタイプが実際に成績に影響する(ステレオタイプ脅威)という事実もあるそうです。大人によるこうした刷り込みをどうにか減らせれば、と願います。(東京都 20代男性)

 ●レベルを下げて受験

 都立高校に通う娘がいます。2年前、受験時に男子基準だとレベルの一つ上の高校に行ける成績でしたが、女子基準ではギリギリでしたので安全圏でないと不安なため、一つレベルを下げて受験し入学しました。女子生徒だから進路を阻まれるのは今でも納得がいきません。自分自身、神奈川県の高校でしたので、高校受験で、このような男女格差があるとは知らず驚きました。東京で男女平等の理念を無視した受験システムになっているのは、世界から見ても恥ずかしいことだと思います。是正してほしいと思います。(東京都 40代女性)

 ●内申点の不透明さに疑問

 内申点は女子が高い傾向があるので男女の枠を外すと女子が有利になってしまわないだろうか。成績の付け方が不透明かつ疑問があった場合、第三者による調査や指導がない現状では女子と男子の定員を分けるのは妥当と感じる。女子の定員が少ないのは疑問。男女同数なら良いのではないだろうか。成績の付け方の不透明さは改善すべきだ。開示請求はできるがその根拠になる情報の提供はされず教員の主観が強く出る傾向にある。(東京都 40代男性)

 ●私立校にも原因

 今回の都立高校の問題は、高偏差値帯における高校受験を行う私立学校の数が男子校女子校間で差があり、併願できる私立の数が少ない女子生徒が都立高校に集中するために起こっていると私は考えている。私立高校に原因がある問題を都立高校に対して非難するのはお門違いもいいところだろう。また男女別の定員を撤廃して成績別に合格を出したところで、高偏差値大学によく見られるような男女比の偏りが生じてしまい新たな議論を生むことは想像に難くない。結局のところ、各高校は自校の教育理念にのっとって生徒を募集し、生徒は自分が共感できる理念の学校を受験するのがお互いにとって利があるのではないかと思う。(埼玉県 20代男性)

 ●「男女比等しく」問題なし

 医学部入試で女子が不当に扱われたのは論外だが、入学時の男女比を等しくする目的で合格ラインを変えている場合は問題ないと思う。(京都府 20代男性)

不利益の当事者 見えぬまま

 取材の過程で1990年の朝日新聞朝刊1面の記事を見て驚きました。30年以上前に、都の検討委員会が都立高校の男女別定員制度を撤廃するよう求める記事が載っていたからです。当時からこの制度が「男女平等」に反するという指摘があったにもかかわらず、議論が進まないのはなぜなのでしょうか。

 山崎新弁護士が「この議論が深まらないのは、当事者が見えないから」と指摘していました。合格最低点が明示されない今の制度では、性別で合否が分かれても受験生自身が知ることができません。合格最低点は東京都だけでなく、すべての都道府県で公表しておらず「ブラックボックス」となっています。公平な入試のために何ができるか、受験生目線で知恵を絞るべきではないでしょうか。(阿部朋美)

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