コロナ禍で活動の範囲狭まる 視覚障害者の切なる願い

岡本進
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 早くコロナ禍が終わり、前のように気兼ねなく街を出歩きたい――。目の不自由な人たちの切なる願いだ。

 埼玉県入間市に住む斉藤雅子さん(65)は毎朝、目を開けるのが怖い。

 重度の視覚障害者となって6年。網膜脈絡膜萎縮症という進行性の病気だ。目の前の相手はぼやけるが、何となく背が高いか低いかはわかる。でも、症状が進み、失明するときが来るのではないか。朝の光を感じ、きょうも、まだ大丈夫なんだと安心する。

 盲導犬のジュディとの暮らしを始めたのは4年前。そのころから、近くの高齢者施設を月に2回ほど訪れ、お年寄りたちの話を聞く「傾聴ボランティア」を続けている。視力が落ち、ふさぎがちになったこともあったが、「目が不自由な自分でも役に立てることがある」と思えた。

 それが、コロナ禍で生活は一変した。感染予防のため、どの施設も外部からの立ち入りを制限した。

 1人で頻繁に出かけていた買い物も控えるようになった。スーパーではキャベツを手に持ち、ずっしりとした重さを確かめて選んでいた。でも、以前のように触ることができない。レジに並ぶとき、「ソーシャルディスタンス」を保とうと両手を広げる。手が当たってしまい、「すみません」と何度頭を下げたことか。買い物は、会社勤めの夫としか行けなくなった。

 初めての場所を訪れるのも好きだった。でも、いまは無理。トイレの場所を探すとき、近くにいる人に「肩かひじを貸してください」と手助けを求めてきたが、とてもできない。

 これまでも不自由がなかったわけではない。「ケーキがおいしいの」と友人に連れていってもらった喫茶店で入店を拒まれたり、コンビニの店員に「ペットはだめです」とジュディを外に出すように求められたりしたこともある。だが、コロナ禍では、自分が活動できる範囲そのものが極端に狭まってしまった。

 「ほとんど家にいるので、仲良くなったお年寄りたちは元気にしているだろうかと心配してばかりいる。早く、前の日常に戻ってほしい」。斉藤さんは、そう言った。

     ◇

 視覚障害者がコロナ禍で不自由を強いられている状況は、日本盲導犬協会の調査からも浮かぶ。

 協会が今年1~2月、盲導犬使用者230人(227人が回答)に「コロナ禍での外出時の困りごと」を複数回答可で尋ねたところ、「ソーシャルディスタンスがわかりづらい」が41%と突出していた。次いで「周囲に手引きなどのサポートを頼みづらい」(22%)、「商品などを触るため、周囲の目が気になる」(21%)、「同行援護依頼回数が減った」(20%)と目立った。

 自由回答では「スーパーのレジに並ぶのに距離感や進み具合がわからなくて困った」が複数あったほか、「(店の入り口などでの)消毒液の置き場所がわからない」との指摘もあった。

 「コロナ感染を理由に、店や施設でのサポートを断られたり、入店を拒否されたりしたことがあるか」との質問には6%(14人)が「ある」と答えた。

 具体的には「デパートの地下で買い物をしようと、いつも通りの誘導を依頼したら、『感染症対策のためできない』と受付の方から断られた」「スーパーで以前はいつ行っても介助してもらえたが、『スタッフが少ないから事前に連絡して』と言われ、さらに『その日、その時間帯は無理』と自由に利用できなくなった」などがあった。

 協会は「周囲から『お手伝いしましょうか』と声をかけるなど、ちょっとした気遣いがあれば困りごとの不安は和らぐ」と視覚障害者への協力を呼びかけている。

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