NHK経営委の議事録開示 番組を批判 放送法に抵触か

宮田裕介
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 NHK経営委員会は8日、かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡って2018年に当時の会長を厳重注意した会議の議事録を全面開示した。当時経営委員長代行だった森下俊三・現委員長が「極めて稚拙」などと番組や取材手法を批判していた内容が記されている。こうした発言は、番組への干渉を禁じた放送法に抵触する疑いがある。

 開示されたのは、厳重注意があった18年10月23日と、その前後の計3回分の経営委の会議の記録。経営委は、正式な議事録ではなく「整理、精査されていない粗起こしのもの」と説明しているが、発言者や議論の過程が明らかにされた。今月6日の経営委で開示が決まり、NHK側が8日、情報公開請求をしていた朝日新聞に示した。

 議事録によると、森下氏は経営委員のみの18年10月9日の会議で「適切な取材のあり方というのは、経営委員会でも意見を言うべきだ」「一方的な意見だけが出てくるという番組はいかがなものか」と発言。さらに上田良一会長が出席した23日には「番組の取材も含めて、極めて稚拙」「取材はほとんどしていない」と述べていた。

 経営委は、番組制作や編集に責任を持つ会長をトップとした執行部とは別の組織で、放送法が番組への干渉を禁じている。厳重注意を受けた上田氏は、経緯が表に出れば「NHKは存亡の危機に立たされる」と懸念を示していた。

 森下氏はこれまで、国会などで「自主自律や番組編集の自由を損なう事実はない」と説明してきた。森下氏は8日、朝日新聞の取材に応じ、放送法への抵触を改めて否定。番組の内容や取材手法に触れたことについては「郵政側の手紙に書かれていたことを確認しただけ」と述べた。

 経営委は議事録の内容について「番組などについて意見や感想を述べ合ったもので、具体的な制作手法について指示したものではない」とするコメントを公表。NHK広報局は取材に「経営委員会が会長に行った厳重注意が、放送の自主・自律や番組編集の自由に影響を与えた事実は無いと認識しています」とコメントしている。

 この問題は18年4月に放送された「クローズアップ現代+」の取材手法などを巡り、日本郵政グループがNHKに抗議したことが発端。日本郵政側は経営委にガバナンス(組織統治)の検証を求め、経営委は「ガバナンス強化」名目で上田氏を厳重注意した。

 NHKが設ける第三者機関「情報公開・個人情報保護審議委員会」は昨年5月、全面開示すべきだと答申したが、経営委は議事の要約しか公開しなかった。

 第三者機関は今年2月に改めて答申を出し、公開が要約にとどまったことについて「対象となる機関自らが手を加えることは、対象文書の改ざんというそしりを受けかねない」と厳しく批判していた。宮田裕介

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