息子奪った9・11テロ「なぜ?」 父は報告書に挑んだ

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阿久沢悦子
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 約3千人の死者を出した米同時多発テロから9月で20年になる。事件で長男を亡くした日本人男性が米国の「9・11調査委員会報告書」の翻訳、出版に取り組んでいる。「誰が、なぜ?」。真実を知りたいという思いに突き動され、500ページを超える大著を10年がかりで翻訳した。

 男性は東京都目黒区の住山一貞さん(84)。事件で長男の杉山陽一さん(当時34)を亡くした。陽一さんは、ニューヨークの世界貿易センタービルにあった富士銀行(現みずほ銀行)の支店に勤めていた。

 住山さんは事件の2カ月前、赴任したばかりの陽一さんを訪ねた。7月4日の独立記念日には、世界貿易センタービルの屋上から、「自由の女神」をかなたに眺め、家族で写真を撮った。それが最後になった。

 現場から見つかった小さなかけらがDNA鑑定で陽一さんのものとわかった。検視官は「それ以外は蒸発した」。空気のどこかに漂っているように感じ、コロナ禍の昨年を除き、住山さんは毎年9月に現地を訪れてきた。

 2004年の訪問の帰途、空港の売店で、米議会超党派が推薦したメンバーによる独立調査委員会の報告書を見つけ、購入した。全567ページ。拾い読みを試みて、一度は挫折した。日本でも08年に抄訳が刊行されたが、事件の背景が省かれていた。同じころ、「テロは米国の自作自演」との陰謀論が広がり、国会でも報告書を疑問視する意見があったのをきっかけに、「信頼できる日本語の資料が必要だ」と一念発起した。

1日3ページ、解説も執筆

 定年前は金属会社に勤め、英…

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