日雇い労働者の町・西成の子育て支援、大阪大教授が出版

小若理恵
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 「日雇い労働者の町」として知られる大阪・西成で生きる子どもを支える人たちへのインタビューを通して、社会のあり方を問い直す書籍「子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援」(世界思想社、税込み2750円)を、大阪大教授の村上靖彦さん(50)が出版した。困難を抱えた子どもや親に寄り添う個性的な実践が詰まった一冊となっている。

 あいりん地区を擁する西成区生活保護受給率は23%(2019年)と高く、困窮世帯も多く暮らす。児童館「こどもの里」の館長・荘保(しょうほ)共子さんや、「にしなり☆こども食堂」の代表・川辺康子さんら5人へのインタビューを通じて、貧困や虐待などの問題と隣り合わせで生きる子どもや親への「自発的で変化に富んだ支援」を紹介している。

 村上さんの専門は哲学。看取(みと)りの現場に立つ看護師への聞き取りから、死期が迫る患者と家族の間でコミュニケーションや関係を紡ぐ様(さま)などを分析してきた。

 西成を訪れるようになったのは14年。ある研究発表の場で、虐待に追い込まれた母親の回復を支える活動を、西成で続ける看護師と出会ったのがきっかけだった。5年ほどかけて、子どもや親に寄り添う5人の支援者にインタビューを重ね、268ページにまとめた。

 5人に共通するのは、地域での子育てにこだわり、自己責任論を否定し、誰も取り残されない社会をめざすこと。それぞれに異なる活動や組織がつながり合い、子育てのゆるやかなネットワークを形成している。

 著書を貫くテーマには「人とつながるとは」「社会とは何か」といった哲学者らしい探求がある。一方で、子どもの声に耳を澄まし、「最善の利益は何か」を考えることから生まれる実践の手引書としての読み応えは十分だ。

 「この地域だからできる『西成マジック』ではなく、子どもの声を聴くことに傾注すれば、どんな地域でも実情に合った形の支援や仕組みができあがるはずだ」と村上さんは言う。法律や制度が出発点だと一人ひとりの顔が見えなくなる、との危惧がある。

 「誰も取り残さない」という理念を具体化するには――。西成に通い、自らの研究実践を通じてその問いの答えを得た村上さんは、「よそ者であっても場に巻き込まれて歩行しなくてはいけない」と著書に結んだ。

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