言いたい!こども庁 ⑤ 社会福祉士・辻由起子さん
こども庁ができれば、いま「見えていない子ども」に光は当たるのか。子どもを守るため、親へのまなざしはあたたかくなるのか。居場所がない10代の若者らを支援する大阪府の社会福祉士、辻由起子さんはそう問いかけます。
――辻さんのもとにはどんなSOSが届きますか。
小さいころから、親の虐待で家に居場所がなく、学校にも十分に通えず、家出をして転々と暮らしているなど、非常に複雑な事情を抱えた子らから相談がきます。虐待を受けていたら、親から保険証を渡されないし、学校に行けていないので学生証もない。親が住民票をどこに置いているかも知らない。自分を証明するものが何一つない子もいます。
子どもにかかわる政策を集約する「こども庁」の創設に向けた議論が与党を中心に進んでいます。新たな官庁にはどんな期待ができるのか、肝心の政策の中身はどうか、そもそも新組織をつくるべきなのか。子どもたちに携わる仕事をしている6人に聞きました。
経済的にギリギリで、心も不安定。目の前に頼れそうな人がいると、そこへ身を寄せることもある。それが上っ面な「甘い言葉」だったとしても。性被害や予期しない妊娠、若年出産なども含め、複合的な問題を抱えています。
――親の虐待であれば児童相談所が保護してくれると一般的には思われています。
一時保護されても、みんなが施設入所や里親宅へ行けるわけではなく、子どもの最善の利益を考えて総合的に判断されます。しかし、その中で、家庭に戻される子たちがいます。家庭環境が改善されなければ、子どもはつらいままです。
中学卒業後に家を出て、生きていくためにと風俗業界で働いてきた女性がいました。小学生のころから何度も児相に保護されていましたが、児童養護施設に入ることはなかった。その子がうちに相談に来た時、「大人は、話を聞くだけ聞いて見放す。業務的。結局縦割り」と言いました。
――こども庁は、縦割り行政をなくして「子ども第一」を目指すとのことです。
子どもは単独では存在しない。親がいるんです。もし、その親がしんどさを抱えていたら? その親が搾取的だったら? 労働問題やジェンダー問題も背景にある。明治時代につくられた民法ににじむ子ども観や家族観が時代に合わない。子ども個人を守るという目的が、親権によってかなわないこともある。
――こども庁構想は反対ですか。
新たな庁をつくらなくても、今の時点で改善に向けてできること、やることがいっぱいあるという考えです。
例えば、年度単位の予算や人…
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- 【視点】
事態を改善するのは制度か運用か。子ども庁をめぐるふってわいた議論の問題は、現状を見つめる前に、制度という見栄えのする「箱」や「仕組み」を変えることに飛びついている点です。辻さんの指摘は、制度や予算の持つ「窮屈さ」、「融通のなさ」を射抜いてい
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