コロナ禍の町工場、パターで世界に挑む 愛知・春日井

荻野好弘
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 コロナ禍では小規模な町工場が請け負う仕事も減っている。空いた時間を使い、愛知県春日井市の榊原工機はプロゴルファーとパターを共同開発した。プロツアーで使える本物。今月から海外向けに売り出した。

 一昨年秋、様々な機械部品を切削する技術の一端を披露しようと、名古屋市であったビジネス展示会向けに試作したのが、パターづくりのきっかけになった。

 榊原崇社長(57)がゴルフ仲間に試作品を贈ると、名古屋市在住の石塚義将プロ(27)を紹介された。昨年春、練習場を訪ね「売り物になりますか」と聞くと、石塚さんは「プロの試合では使えません。もっとシンプルでないと」。表面に多数の丸いくぼみをあけた真鍮(しんちゅう)製ヘッドは、色も形状もダメ出しされた。

 「それなら、お望みのものを作ります」と榊原さんは切り返した。市販のヘッドは金型を使って量産するものが多いが、榊原工機は金属を精密に削って部品に加工する会社。ステンレスの塊を工作機械で削り出す方法で製作に入った。

 形状のほか、特にこだわったのが、ヘッドの打面の傾斜角(ロフト角)だ。3~4度が傾いているのが一般的だが、石塚さんの要望で7度や9度も設計。打面の加工も工夫し、50本ほど試作を重ねた。

 「コロナ禍で本業の受注が4割ほど減り、時間的な余裕もできたんです」と榊原さんは振り返る。

 昨年末にできあがった「榊パター」は、ロフト角7度。打感が柔らかくなるよう細かな溝を打面に刻み、構えたときのクラブと地面の角度も4種類設けた。ゴルフの本場英国にサンプルを送りルールに適合していると認められ、商品化が決まった。

 石塚さんは中学時代から長く米国で暮らした。いまは渡米してプロの下部ツアーに参加し、さっそく3月の試合で使った。「芝の丈が長いグリーンでも転がしやすい。榊パターで結果を出したい」。芝が刈り込まれていないグリーンでプレーするアマチュアも使いやすいという。

 米国やインドネシア、タイなどのプロ、ゴルフショップと代理店契約を結び、英語サイトを開いてネット販売を始めた。「町工場と無名のプロが開発したもの。日本で売っても見向きもされないかもしれない。まず世界で認められたい」と榊原さん。

 プログラミングした大型機械を丸1日動かしてヘッド1個ができて、外注するクラブのシャフト(棒)に取り付ける。日本円で1本40万円から。

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この記事を書いた人
荻野好弘
高山支局長
専門・関心分野
地方文化、地方行政、移民