原告「JRは国や自治体に準じる」 大分の無人駅訴訟

倉富竜太
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 【大分】JR九州が駅を無人化したことで、移動の自由を制限されて苦痛を受けたとして、車いすを利用する大分市内の3人が損害賠償を求めた訴訟の第2回口頭弁論が13日、大分地裁(府内覚裁判長)であった。原告側は、JR九州は民営化時に巨額の負債免除や資金援助を受けており、単なる事業者ではなく、国や自治体に準じた立場にあるとして、すべての人に移動の自由を保障する義務があると訴えた。一方、JR側は弁論後、「裁判の中で、丁寧に回答していきたい」とした。

 争点は、障害のある人が社会的障壁の除去を求めた場合に対応しなければならないとする障害者差別解消法が定める「合理的配慮」が、JR九州にどこまで求められるか。同法は国や自治体に配慮を義務づける一方、事業者には努力義務と規定している。

 原告側によると、国鉄民営化の際、鉄道事業の黒字化を見込むことができなかったJR九州、北海道、四国に対し、国は国鉄時代の巨額負債を免除。経営安定基金として計3877億円とされる資金も提供された。一時は固定資産税などの減免措置もあった。

 その上でこれらの措置は「民営化後のJR九州が、赤字解消を理由に鉄道網の廃止や縮小をすることで、利用者である国民の移動の権利が侵害されるのを回避するためだ」と主張した。

 上場前の15年には、当時のJR九州社長が国会で「赤字を理由に路線の廃止予定はなく、今後も安易に廃線をしない」と答弁。原告側はこれを「車いす利用者など交通弱者の移動の自由について、経営上の採算性を理由に、制約しないということを実質的に誓約している」と訴えた。

 さらに「大分市内8駅の無人化計画を表明した際、JR側は鉄道部門の20億円の赤字を解消するためと説明した。だが、17、18年度は、鉄道事業で267~280億円の営業利益をあげている。経費削減のため、駅を無人化することの背信性は著しい」とした。

 意見陳述した原告側弁護団の松尾康利弁護士は「鉄道網を維持するため、多額の税金が投入されてきた。一民間企業と全く同等にとらえるべきでないことは明らかだ」と話す。

 JR側は「人口減少や少子高齢化で、利用者の減少傾向が顕著になっている。放置すれば交通網の維持すら危ぶまれる。効率的な事業運営を構築しつつ、安全性と利便性の向上を図っている」と主張している。

     ◇

 この日は原告の一人、宮西君代さん(58)が意見陳述した。宮西さんは先天性の脳性まひで、肢体や発語機能が不自由。30代前半まで何とか歩けたが、40代になってからは車いすでの生活を送っている。

 宮崎県の支援学校を卒業後、別府市で暮らした。電動車いすで最寄りの駅をよく利用していたという。「駅員さんに車いすを預けて階段を上り下りした。合理的に配慮してもらっていました」と振り返った。

 その後、大分市に移り住み、2018年に無人化された日豊線の牧駅を利用していた。無人化前は駅の階段の前で車いすを降り、ヘルパーの介助で階段を使った。駅員には車いすと荷物を運んでもらっていた。「牧駅はホームが狭く、特急列車が通過すると怖かった。駅員さんが車いすの前に立って、恐怖心を取り除いてくれていた」と語る。

 無人化により牧駅を利用できなくなった。「以前は思い立って駅に行きさえすれば、駅員さんに手伝ってもらえた。今は前日の夕方までの電話予約が必要になり、言葉を聞き取ってもらいにくい私は人に頼まなければならない。その苦痛はとても大きく、憤りを感じます」と訴えた。(倉富竜太)

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