アスベスト健康被害の支援の遺志継ぐ、亡き鎌ケ谷の男性

伊藤繭莉
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 アスベスト(石綿)が主な原因で発症するがん「中皮腫」の患者を励まそうと、亡くなる直前まで全国を回っていた千葉県鎌ケ谷市の男性がいた。中心となって結成した「中皮腫サポートキャラバン隊」の遺志はメンバーが引き継ぎ、今春にはNPO法人化して活動をさらに広げている。

 4月25日、NPO法人の設立記念式典がオンラインで開かれ、患者や家族、医師ら約60人が参加した。キャラバン隊は全国を回って患者や家族を励まし、治療に関する情報を伝えるなど患者を支援してきた。

 式典ではメンバーが、同隊の共同代表だった鎌ケ谷市の栗田英司さん(享年52)の写真を見せながら、彼の功績をたたえた。

 栗田さんは33歳の時、腹膜中皮腫で「余命1年」と診断された。中高生時代に建築のアルバイトで石綿を吸ったとみられる。中皮腫は約20~50年の潜伏期間を経て発症する。栗田さんは発症後も20年近く生きた、珍しい長期生存者だった。

 治療法に関する情報が少なかった経験から、闘病ブログを通じて知り合った右田孝雄さん(56)=大阪府岬町=と、2017年にキャラバン隊を結成。長く生きる自分の経験が患者に希望を与えると思い、全国を訪ねて100人以上の患者を励ました。19年に亡くなる4日前にも、やせ細り、歩くのもままならない中、名古屋市で講演した。

 そんな栗田さんの姿を見てきた全国のメンバーが、遺志を引き継いだ。

 毎週1回、オンラインで全国の患者や家族の交流会を開催。治療法や副作用などの相談に応じている。患者が日々の体調を入力すると、遠方の家族に通知されるアプリ開発で企業に協力したり、療養生活の質の向上のためのアンケートを実施したりしている。

 栗田さん以外でも、この世から旅立ったメンバーもいる。活動が存続するように、NPO法人にしたという。

 栗田さんは生前、中皮腫には確立した治療法がないことから、「治療法の選択肢を増やしたい」と願った。今後NPOでは新薬の開発や治験の臨床研究にも積極的に協力していく。

 右田さんは、「同志たちが旅立つ度に心が折れる。でも、立ち止まったら栗田さんに怒られる。『なぜ自分がこんな目に遭うのか』と無念な思いをしてきた同志たちの思いも背負って、中皮腫を治せる病気にしたい」と話している。

 相談は、キャラバン隊(0120・310・279/平日午前10時~午後5時)まで。(伊藤繭莉)

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 〈アスベスト被害〉 アスベスト(石綿)は極めて細かい繊維状の鉱物。熱に強く、耐火建築や断熱材などに広く使われたが、2006年に原則として製造や使用が禁止された。石綿を吸うと、数十年の潜伏期間を経て、中皮腫や肺がんなどを発症する。厚生労働省によると、19年の中皮腫による死者は1466人で、最近5年は年1500人前後で推移している。石綿による肺がんは、中皮腫の約2倍だといわれている。

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