2兆円超の東芝買収、頓挫の舞台裏 新体制の行方は
東芝をめぐる総額2兆円超もの買収劇は、社長の辞任を経て、幕が下りた。最初の提案から2週間。英国系の投資ファンドは何を狙い、なぜ実現しなかったのか。東芝の新体制は、どこへ向かうのか。
幕開けは6日夜だった。
東京・芝浦の東芝本社に英国系投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズから買収提案が届いた。A4判8枚。日本語で「ご提案書」と書かれていた。東芝株を公開で買い付け、いったん非上場に。企業価値を高め、3年後の再上場をめざす内容だった。
法務部の担当者から連絡を受けた社外取締役は違和感を感じた。「現経営陣の続投」が買収の前提になっていたからだ。
東芝の取締役の選任案は社外取締役5人からなる指名委員会がつくる。社長の車谷暢昭(くるまたにのぶあき)(63)を続投させるべきか、指名委は議論を重ねていた。
車谷は三井住友銀行の元副頭取。CVC日本法人を経て、東芝に転じた。リストラも交えて業績を回復させた一方、株主や部下とのコミュニケーションは十分ではなかったようだ。
大株主であるファンド関係者は「我々の提案に聞く耳を持たず、誠意もない」と車谷を批判する。社長として信任するか否かを東芝幹部に尋ねる指名委の意識調査でも、車谷への不信任は過半数を占めるようになっていた。
車谷の「古巣」であるCVCからの買収提案は、そんな最中だった。
実現して東芝株をCVCが買えば、既存の大株主との対立関係も解消する。この社外取は「タイミングが良すぎる」と感じた。
指名委の委員長、永山治(74)はすぐ動いた。車谷に連絡し「あなたは関係あるのか」とただした。車谷は「寝耳に水です」と答える一方で、周囲にはこう漏らした。「CVCはホワイトナイト(友好的な買収者)だ」。「買収提案への賛否は株主の判断。株式売却の機会は奪えない」
提案は翌7日付の日本経済新聞が報じた。車谷は、東京・港区の自宅マンション前でテレビカメラを向けられ、「取締役会で議論します」と言った。
車谷への視線は冷え切った。
車谷が「再生の象徴」としていた東証1部への復帰は、今年1月に果たしたばかり。非上場化をめざすCVCの提案について「成立するなら辞表を出す」と息巻く社員もいた。
銀行も冷めていた。CVCから買収資金の融資を打診されても慎重だった。あるメガバンクの首脳は「誰のための買収か見極める。断ることも考えないと」と語った。
事態は13日に動いた。翌14日の臨時取締役会に向け、指名委の永山らが車谷の解任に動いた。察知した車谷は辞意を周囲にもらし、朝日新聞などが「辞任へ」と速報した。車谷は14日朝、自宅前での記者からの問いかけには一切応じず、いつもの多弁は影をひそめた。
「再生ミッションを果たした」
車谷は臨時取締役会で辞任を表明。後任社長に就いた綱川智(65)らの記者会見に姿を見せなかった。車谷のコメントは広報担当者が代読した。「任された再生ミッションを果たした」
買収提案も姿を消した。 CVCは、共同買収者などを盛り込んだ詳細な提案を追って示すと東芝に伝えていた。しかし、期日の16日になっても届かず、「検討中断」が知らされたのは19日。敵対的買収をする意図はない、とし、東芝は事実上の撤退と受け止めた。
CVCは欧州を中心に世界23拠点で約1178億ドル(約12兆円)を運用する投資ファンド。ただ、2003年設立の日本法人には焦りがあったようだ。
「すかいらーく」への出資や資生堂の日用品事業の買収を手がけたが、規模は最大で1千億円台。「もっと大きな案件ができないのか、と英国の本部からせっつかれていた」と関係者は打ち明ける。
ファンド「今後を決める試金石」
バンカー出身の車谷の後任に…