福島を知って、社会に潜むリスクに注視 記者サロン

朝日新聞福島総局と福島放送(KFB)は3月20日、オンラインイベント「震災10年 福島のいま、これから」をライブ配信した。震災と原発事故からの歩みを振り返り、視聴者から寄せられた質問を交えて、今後の課題を考えた
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 朝日新聞福島総局と福島放送(KFB)は3月20日、オンラインイベント「震災10年 福島のいま、これから」をライブ配信した。震災と原発事故からの歩みを振り返り、視聴者から寄せられた質問を交えて、今後の課題を考えた。要旨は次の通り。

     ◇

 笠置わか菜・KFBアナウンサー 三重県の60代男性から「第一原発の汚染水の取材で抱いている思いを語ってほしい」という質問が寄せられた。

 福地慶太郎・朝日新聞福島総局記者 国と東京電力は、海に流す場合は環境や周辺の人々に悪影響がないよう大半の放射性物質を除去し、正しい情報の発信に努めるとしている。でも、地元の方や避難された方は「原発事故は起きないと国と東電は言い続けたが、事故は起きた。今回も不都合なことは言わないのではないか」との懸念がある。土台になる信頼回復がまず求められていると感じる。

 笠置 震災や原発事故の風化も指摘されている。

 塩見知花・KFB記者 何を、どう残すかが大事。夫を津波で亡くした語り部の女性が一番強く訴えているのは自分の命は自分で守ること。同じ思いをして欲しくないから、命を守る大切さを訴えている。別の女性は「私たちが記憶をなくしてしまっても桜を見れば、震災や原発事故を思い出すでしょう」と、国道6号沿いを2万本の桜並木にする活動をしている。モノで残すことも、伝承に大きな役割を果たしてくれるのではないか。

 笠置 復興には色がある。のり棚の緑や再建された街の屋根は色鮮やか。一方、福島第一原発には朽ちた建屋やおびただしい数のタンクがあって色がない。このギャップが今の福島を表しているのかなと感じる。みなさんが取材で印象に残った人や言葉は。

 福地 富岡町の避難指示区域に自宅がある元畜産農家の男性から、愛情をかけた牛が堀に落ちて死んでいるのを見つけたと聞いた。「これが原発事故がもたらしたものだ」と言われ、しっかり伝えたいと感じた。

 力丸祥子・朝日新聞福島総局記者 帰還困難区域の一時帰宅に同行した。家族との思い出が詰まった家なのに、天井から雨漏りし、動物が台所の調味料を散乱させていた。「一度、原発事故が起きればこうなってしまうことを、きちんと知ってほしい」との思いを受け止め、読者に伝えたい。

 笠置 日々の取材で課題に思うことは。

 塩見 私は震災の翌年、大学進学で福島を離れたが、福島出身だと言うことが怖かった。今は胸を張って言える。福島の復興の様子を知っているから。福島に不安なイメージを抱く方もいる。ギャップを埋めるためには、福島のことを知ってもらうことが一番なのではないか。

 力丸 まだ語れない方もいる。まだ知らない思いもある。知っているつもりにならないことが大事。

 笠置 「本当に復興は進んでいるのか」との質問も千葉県の60代男性から寄せられた。

 長屋護・朝日新聞いわき支局長 難しい質問だ。ハード面ではかなり進んだ。原発事故で避難したが、危機感をバネに売り上げを震災前より大きく伸ばした会社もある。一方で、いまだに農産物の風評被害は続き、原発事故の避難者による東電などへの訴訟は各地で行われている。そういった意味で、復興はまだ道半ばだと思う。

 笠置 これからどんな報道をしていきたいか。

 力丸 自分事をテーマに掲げている。記事を通し、原発事故や福島に関心を持ってほしい。もう一歩進んで、なぜ原発事故が起きたのか、それぞれが暮らす社会に潜むリスクにも目を向けてもらえる報道を心がけたい。

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