平和推進条例、先送り 市民意見1千項目「丁寧に協議」

宮崎園子 比嘉展玖
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 広島市議会初の政策条例となる予定の「平和推進条例(仮称)」を検討してきた市議会政策立案検討会議は、当初予定していた年度内の条例制定を断念した。同会議がまとめた素案に市民から多くの意見が寄せられ、「丁寧な協議が必要」と判断した。

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 「目標にしていた2月議会については、物理的に難しいのではないか」

 18日、広島市議会の各会派代表が集まった政策立案検討会議。始まって間もなく、代表を務める若林新三議員が参加議員に諮った。

 同会議で議論してまとめた平和推進条例(仮称)の素案に対し、市民からの意見を募ったところ、1月中旬から1カ月間の募集期間内に598人・団体、期間後も9人・団体から、計1043項目の意見が寄せられた。精査に時間がかかり、2月下旬に開くはずだったこの日の会議は1カ月近く延期となっていた。

 被爆75年となる2020年度内の条例制定を目指していたが、さらに議論を続けることに異論は出なかった。40分の会議終了後、若林議員は報道陣にこう語った。「600人あるいは1千項目というのは、広島市の今までのパブリックコメント(市民意見募集)で例がないのでは。平和に対して市民の関心が広がっていることの証しだ」

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 「『平和』とは、世界中の核兵器が廃絶され、かつ、戦争その他の武力紛争がない状態」「市民は、本市の平和の推進に関する施策に協力する」――。前文と10の条文、付則で構成する条例素案。その中で特に多くの意見が寄せられたのは、8月6日の平和記念式典を「厳粛の中で行う」とした6条2項だった。

 式典をめぐっては、拡声機を使ったデモ隊による行進について、保守系会派を中心に条例での規制を求める声が上がる一方、被爆者団体などからは規制に慎重な声が上がっていた。

 「8月6日に私たちがとるべき行動は、祈るということに尽きる」「8/6にデモが許されていることは異常事態」。意見募集で寄せられた声は賛成が多かった。一方、「祈っているだけでは平和は来ない」「8月6日は核と戦争に反対する日」など反対意見も。

 広島弁護士会は2月、「表現の自由が制約されるおそれがある」として、素案に反対する会長声明を出した。県原水協や県原水禁などの反核団体も懸念を表明。意見が真っ二つに割れたこの部分を含め、同会議は今後、条項ごとに各会派で意見を出し合い、全会一致の場合に素案を変更する方針だ。若林議員は「合意できるところを目指しながら協議したい」と話した。

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 条例素案は、平和運動に取り組んできた若い世代の市民によるロビー活動など新たな動きも呼んだ。

 先月22日、10~40代の市民らでつくる「平和推進条例の改善を求める市民キャンペーン」のメンバー3人が市議会各会派の議員控室を回り、要請書を出した。3月末までの性急な制定を見送り、市民と議論することなど4項目を求めた。

 キャンペーン代表の渡部久仁子さん(40)は要請書提出後、「平和の定義が狭小だ。広島が平和を定義する責任の重さを認識し、グローバルな視点でいてもらいたい。核兵器禁止条約についても言及してほしい」と話した。「人生で初めて市議会に来た。活動を通じて、広島市の中でも疑問が湧き上がれば」

 18日の政策立案検討会議も傍聴した渡部さんは「世代を超えて広島の訴える平和について議論する機会を企画したい」と話した。(宮崎園子、比嘉展玖)

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